ロイヤル'84 セカンド・コンサート
ロイヤル'84 セカンド・コンサート
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吹きたかったから吹いたマイルスの自然体に感動
Royal '84 Second Concert (Sapodisk)

 ローリング・ストーンズやボブ・ディラン、はたまたエリック・クラプトンやプリンス等々、ライヴ音源が続出するミュージシャンやグループに共通の悩みだが、我らが帝王マイルス・デイヴィスも、最近では「ナニがナニヤラわからない状態」に突入している。果たして新音源とか発掘音源として登場する新しいCDが「完璧な初登場物」なのかどうか、瞬時に見分けがつかない。

 ひとつにはタイトルが似ていること、年代が集中していることによるが、今回ご紹介する『ロイヤル'84セカンド・コンサート』も、これまで出ているような出ていないような微妙な音源。そこでまずは交通整理から。拙著『聴け!V8』の734ページを開いてください。そこには『イッツ・ロイヤル』というメガ・ディスク盤が載っています。6曲収録のコンパクトな1枚です。そのCDには、当日行なわれた2回のコンサートから、それぞれ3曲ずつ収録されている。放送音源をCD化した、いわばハイライト集です。

 その後、ファースト・コンサートが単独で発売され(このコーナーでご紹介しました)、まだかまだかと待たれていたセカンド・コンサートが、今回のこのCDというわけです。したがって、前述の「出ているような出ていないような」という表現は、この3種類のCDにこそふさわしく、より正確にいえば「出ていたが出ていなかった」ということになります。

 奇妙にも《スター・ピープル》からの収録となっています。オーディエンス録音で、クオリティとしては「まあまあの下」といったところでしょうか。しかし「悪い」というわけではなく、このあたりがこの種のCDの音質評価のむずかしさです。浅い印象としては「ちょっと遠いかな」という感じといえば、ご理解いただけるでしょうか。

 これが84年マイルス・バンドの全景というものでしょう。マイルスが正しく吹き、ボブ・バーグやジョン・スコフィールド等のメンバーが正しく反応し、全体の演奏はあくまでも正しく進行します。Dトレインの《サムシングス・オン・ユア・マインド》が2回出てくるのは、この時期、マイルスがいかにこの曲を気に入っていたかということの証左でしょう。一部では「アンコールに適した曲がなかっただけだろう」といわれているようですが、「なかった」などという事態は起こりようがなく、おそらくマイルスはこの曲が単純に「吹きたかった」のだと思います。気持ち良くトランペットを吹くマイルス。これ以上、なにを求められましょう。

【収録曲一覧】
1 Star People
2 What It Is
3 It Gets Better
4 Something's On Your Mind
5 Time After Time
6 Hopscotch
7 Star On Cicely
8 Jean Pierre
9 Code M.D.
10 Something's On Your Mind
(2 cd)

Miles Davis (tp, synth) Bob Berg (ss, ts) John Scofield (elg) Robert Irving (synth) Darryl Jones (elb) Al Foster (ds) Steve Thornton (per)

1984/7/17 (London)

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