漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏は、「サッカー リオ五輪アジア地区最終予選・決勝(日本×韓国)」(テレビ朝日系 1月30日23:12~)の解説者・松木安太郎氏について、こう論じる。

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 ドーハ(カタール)で開催された、リオ五輪のサッカーアジア地区最終予選。出場権獲得おめでとう。テレビ朝日が、ここぞとばかりに「絶対に負けられない戦いが、そこにはある」を連呼したけど、むしろ絶対に欠かせない解説者が、そこにはいる。そうです、とにかく明るい安太郎です。こと、松木安太郎である。

「よーし、にょっ!」「うぉーい、おーほっほっほっ!」「ふぁ~っ!」。試合中の安太郎は、ほぼ擬音だ。

「フリーだからね、フリーだからね!」「この後だ、この後だ!」。大事なことは2回言う。実際サッカー観戦に行くと、たいてい発する言葉は「おーっ!」だの「だーっ!」なので、安太郎の臨場感ハンパなし。

 そして、試合がしょっぱい時こそ、安太郎。「ファウルと言えばファウルだし、ファウルじゃないっちゃ、ファウルじゃない」。どっちだよ! 「これは、バスの中でちょっと揺れてぶつかった感じ」。例えがわかりづらいよ!と、お茶の間とのコール&レスポンスなボケで、なごませてくれる。

 
 準決勝イラク戦のロスタイム、勝ち越しゴールを奪った日本。歓喜の絶叫、しかし試合はまだ続く。「えっ、何分あんの? あと何分?」「あと何分だ、もう時間じゃないか、おいっ」。ただの「あと何分」マシーンと化した安太郎だけど、その心の奥底に刷り込まれている記憶は、きっと23年前のドーハ、イラク戦。

 アメリカワールドカップ・アジア地区最終予選のロスタイム。イラクに同点ゴールを決められて、初出場の夢が一瞬にして消えた「ドーハの悲劇」だ。直後のNHK BS1、女性アナに「非常に残念です」と話を振られた、後の代表監督・岡田武史氏は「僕は中継中にも……」と、言葉を絞り出すも涙をこらえきれず、「すみません」とうつむいた。まさに日本列島全体に、金ダライが落ちてきたような衝撃。画面も曇るほど、どんよりした、あのスタジオが忘れられない。

 あれから23年。リアルタイムで「悲劇」を知らない23歳以下の選手たちが、同じドーハの地で、イラク代表を相手にロスタイムにゴールを決める。遠い日の日本代表に言いたい。今私たちは、「ほんとにもう甘い、スイート以上の甘さがある!」という、よくわからないけど、ハッピーな安太郎の賛辞を聞きながら、代表戦を見ています。

週刊朝日  2016年2月19日号