
最後のセクステットと新刊情報その2
Last Sextet In france 1991 (Cool Jazz)
まったく顧みられる機会はありませんが、マイルスが最後に率いたセクステットは、晩年の数あるグループのなかでも最高だったと、強く思います。いてもいなくてもいいようなパーカッション奏者(実の息子エリン・デイヴィスでしたが)を削除し、キーボードをデロン・ジョンソン専任とし、よりコンパクトに縮小化したことが、音楽的な緊張感を取り戻す要因になったと考えられます。
今回ご紹介するライヴは、そのラスト・セクステットによる、ほとんど最後のライヴです。同時期にマイルスは同窓会ライヴを、やはりパリで行なっていますが、このライヴは、まったく別の日のもの。とはいえ数日のちがいですが、とにかくマイルスは精力的に動き回り、その点からも、とても最晩年のツアーとは思えません。
音質は、いわゆるオーディエンス録音ながら臨場感はたっぷり。冒頭、場内のBGMに合わせてマイルスがトランペットを吹くあたりは、じつにもってライヴな展開ではあります。曲はお馴染みのものが大半を占めるものの、プリンスの《ペネトレイション》がうれしいボーナス・トラック、いや最初から予定通り演奏されていたわけですが、なかなかの拾い物ではないでしょうか。
さて恒例の新刊情報、今回はその2というわけで、『マイルス伝説ーー「アガルタ」「パンゲア」の真実』(河出書房新社:3月刊)から、巻末に収録されている、中山と音楽評論家・原田和典さんとの対談の一部を先行掲載させていただきます。
今回の本ですが、横尾忠則さんをはじめ、関係者へのインタヴュー取材は、原田さんにお願いしました。そのようなことから、最後にシメとして原田さんとの対談を掲載しているわけですが、今回は、原田さんとマイルスとの出会いの部分をご紹介しましょう。これがなかなかに興味深いものとなっています。
原田:『アガルタ』は確か80年代の終わりごろ、CDで買いました。『パンゲア』はLPの発売直後に聴いています。ぼくの父親はバンドマンだったのですが、引退してからもレコードは買い続けていて、「今の音楽を聴かなくてはだめだ」と言いながら、クイーンやタワー・オブ・パワー、シカゴなどの新譜を家でかけていた。そのなかに、『パンゲア』もありました。家は北海道の田舎でしたから、まさに「大きい音で、住宅事情の許す限り聴いてください」と、ライナーノーツに書いてあるとおりの大きい音量で、父の横で自然と聴いていたのが始まりです。75年の来日公演では北海道にも来ているんですが、行けませんでした。札幌公演を告知するテレビCMががんがん流れていて、そのBGMがすごく耳に残ったことを思い出します。いま思えば《イフェ》という曲でした。
うーん、そんなことがあったのですか。北海道のテレビから流れる《イフェ》、なんとシュールなのでしょう。それではまた来週。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 Human Nature
5 Time After Time
6 Penetration
7 The Senate / Me And You
8 Amandla
9 Wrinkle
10 Tutu
11 Untitled Tune
(2 cd)
Miles Davis (tp, key) Kenny Garrett (as, fl) Foley (lead b) Deron Johnson (key) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds)
1991/7/5 (Paris)