年明けから国内外の株式市場が大荒れだ。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)のギャンブル投資で、すでに年金に運用に大損が出ているという見方もある。内閣官房参与で米エール大名誉教授の浜田宏一氏は、政府は国民に運用のリスクを説明すべきだという。
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ダボス会議の前座のようなジュネーブの会議で最近、アメリカ人の出席者がにやっと笑って「日本も株価操作をやっているんじゃない?」と私に言いました。GPIFなどを使って官製相場をできる状況にあるという考えなのでしょうか。GPIFがそうしているとは私は思いませんが……。
長期でみると、株式運用のほうが債券で運用するよりも収益率が高くなります。私自身が米エール大学で積み立てた年金基金を考えても明らかです。ただ株式は変動が激しいので、短期では損を出すというリスクも負わざるを得ません。GPIF関係の友人に、国民にリスクを説明すべきと何度も言ってきましたが、はっきりした回答は得られないでいました。どうしてはっきりと言わないんですか?と聞いたのですが、やっぱり怖くて、内部でそういうことに踏みこめないという感触でした。損得を受けるのは国民で、国民もバカではないのですから、損をすることもあると、ちゃんと知らせておかねばならない。
かつてのGPIFは、資本損失しないようにと債券で運用してきましたが、債券運用では収益率はせいぜい1%程度。そのような運用では10年後にはかえって国民にツケが回ります。株式投資のない分、経済成長の足を引っ張るので、二重の意味で国民は損をします。
アメリカでは、比較的安全な債券を運用する年金と、ハイリスク・ハイリターンな株式運用をする年金とがあり、どう運用するか個人が選択することができる。私は株式に半分しか投資しない保守的な態度でしたが、30年間でリーマンショックの年を除いてほぼ毎年、株式により多く投資した人のほうが儲かってきました。収益とリスクに対する態度は個人差があるので、このように個人がリスクの度合いを選択できるシステムに日本の年金運用も変わっていく必要があります。そのためには、政府が両者のリスクとメリットを明らかにして、国民に知らせるのはもちろんです。株安などマイナスの側面ばかりが出てきて、海外でアベノミクスを弁護するには今が一番厳しい時期です(笑)。今は世界中、悲観的です。ただ落ち着いて考えると、アメリカの量的緩和政策からの出口は円安に向かうので日本にはプラス、原油安はデフレからの回復を遅らせる副作用はあるが日本経済の実体には戦後最大のプラス要因。こういうときに冷静に株式を買う投資家が最後には笑うのです。
※週刊朝日 2016年2月5日号