林:古今亭志ん朝さんが、どうってことない役で出てたり。
黒柳:志ん朝さんは私が見つけてきたの。落語を見に行ったらすごいハンサムがいたので、演出の岡崎栄さんにすすめたら、すぐに見に行ってくれたんです。だから志ん朝さんは私のことを「お姉さん」と言って、大事にしてくれましたね。亡くなったときはほんとに悲しかった。
林:森光子さんも出てらっしゃいましたよね。とってもやさしくて気遣いの方でしたが、実は本当に心を許せる相手は少なくて、そのお一人が黒柳さんだったような気がします。
黒柳 森さんとはいろんなお話をしましたね。あるとき、本番前の混乱状態の楽屋で私はのんきに週刊誌開いてたの。左に頭がツルツルの写真、右にフサフサの写真がビフォーアフターで載ってたから、「毛生え薬でこんなに生えるかしら? こういうのって詐欺としか思えない」って言ったら、森さん、切羽詰まっているはずなのにこっちを見て、「徹子ちゃん、それはカツラの広告よ」って(笑)。当時は男性用のカツラなんてほとんどなかったのに、そういうのが森さんはほんとに早いの。
林:舞台「放浪記」で森さん演じる林芙美子のライバルとなる日夏京子、森さんは「黒柳さんが一番よかった」って何かでおっしゃってましたね。
黒柳:たくさんの方があの役をやってるから森さんはあまりおっしゃらなかったけど、最後のころ、「私はあなたの日夏京子が一番好きでした」って。森さんがすごいのは、私がぜんぜん違うふうにあの役をやったら、「どんなに違ったっていいのよ。そうすれば私も変えられるかもしれないから」って。
林:まあ。
黒柳:2千回もやってるのに変えられるかもしれないなんて、すごい女優さんだなと思いました。
※週刊朝日 2016年1月1-8日号より抜粋