「12~1月にかけて亡くなる高齢者は、6月や9月に比べて3割ぐらい多い。そのほとんどが屋内での死亡です。最も危険なのは冬の入浴です」
こう話すのは、東京都健康長寿医療センター研究所元副所長の高橋龍太郎さんだ。
2014年に高橋さんらが発表した報告によると、11年の1年間に浴室で心肺停止した65歳以上の高齢者は、9360人。ここから高橋さんは全国で1万7千人が入浴中に心肺停止に陥っていると推測した。心肺停止の多くが死につながる。
交通事故による死亡数の約4倍で、厚生労働省が公表しているこの数字は同年の高齢者死亡数の約1.4%にあたる。
入浴中の死亡原因の一つと考えられているのが、“ヒートショック”だ。国際医療福祉大学教授でリハビリ医の前田眞治さんは、
「急激な温度変化によって血圧が急激に上がったり下がったりし、体に不調をきたすことを言います」
と説明する。ヒートショックが引き金となって生じる疾患は3通りある。
一つは、冷えた体で高い温度の湯に入ることで血圧が急上昇し、心筋梗塞や脳梗塞、脳出血、不整脈などが起こるケース。もう一つは、血圧が高めな人が入浴で体が温まって末梢血管が広がり、血圧が低下。立ちくらみや失神を起こすケースだ。後者が洗い場で起こればケガなどですむが、浴槽内なら溺れて、死につながるおそれもある。
「動脈硬化の進んだ高齢者や、糖尿病や高血圧などの生活習慣病がある人は、特に注意してください」(前田さん)