ジャーナリストの田原総一朗氏は、自民党内で歴代総裁として安倍晋三氏が最も評価されていることに意外な思いだったという。

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 自民党が結党したのは1955年で、今年は60年という節目の年である。

 朝日新聞が自民党の党員、党友を対象に行った意識調査で、歴代総裁の中で最も評価されたのは、現総裁の安倍晋三首相であった。2位が小泉純一郎、3位が田中角栄、4位が中曽根康弘、5位が佐藤栄作となっている。

 私は率直に言えば、「意外」な思いであった。

 安保法が強行採決によって成立したのは9月19日の未明だった。9月19、20日に朝日新聞が行った世論調査では、安保法に賛成が30%、反対が51%であり、政府が国民の理解を得ようとする努力を「十分にしてこなかった」が74%に達していた。ちなみに、同日に共同通信が行った世論調査でも、安保法を「十分に説明しているとは思わない」が81.6%に達した。

 国会審議では安倍首相や中谷元・防衛相の答弁が矛盾し、自ら撤回するなどの迷走が続き、朝日新聞や毎日新聞は、強く廃案を求めていた。現に世論調査では、国民の約6割が反対、つまり廃案を求めていたわけで、朝日新聞や毎日新聞が偏向していたわけではない。

 それに前出の世論調査では、安倍内閣の支持率は朝日新聞が35%、共同通信が38.9%と、政権維持がやっとという状態であった。

 その安倍首相が、なぜ党員、党友の意識調査で第1位となったのか。私は、フランスのパリで発生した同時多発テロが要因ではないかととらえている。

 
 11月13日のテロでは132人が生命を失い、その前日の12日にはレバノンで起きたテロで44人が死亡した。さらに11月20日にはマリの首都バマコのホテルが襲撃されて27人が死亡し、24日にはチュニジアの首都チュニスで大統領警護隊が乗ったバスが爆発した。

 テロが世界の各地で頻発し、「イスラム国」(IS)は、次はアメリカを狙うと宣言している。そしてテレビも新聞も雑誌も、アメリカでいかにしてテロが起きるかと、生々しい予測を報じ、日本もテロに狙われていると各誌が断定的に書いている。

 同時多発テロが発生したばかりのパリで11月30日、世界の約150の国・地域の首脳が参加してCOP21が始まった。

 議長国のオランド大統領も、アメリカのオバマ大統領も、そして安倍首相も「テロと断固戦う」と強い決意を示した。ISの狙いは、特に先進国の市民たちを恐怖に陥れることであり、その狙いは成功していると言わざるを得ない。

 日本はアラブの国々を侵略したこともなく、空爆にも参加していない。その意味では、ISと交渉のできる数少ない国だが、そのことを言いだすと、手ひどい批判を浴びせられる。そういう雰囲気が張りつめている。「テロを断固許さない」「テロと断固戦う」。いわば強い国になるべきだとする空気が急激に広まったわけだ。

 戦後、自民党よりも長期間、この国で支配的であった「リベラル」が「責任回避」という見方をされるようになりつつある。そのことはよくわかるが、しかし、空爆などいくらやっても決着がつかないのもまた事実だ。それはオランドもオバマもプーチンもわかっているはずで、どこかで交渉という手法に切り替えるしかない、と言わざるを得ない。

週刊朝日  2015年12月18日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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