コンプリート・ライヴ・イン・スイス1971
コンプリート・ライヴ・イン・スイス1971
この記事の写真をすべて見る

キース・ジャレット時代の激演がコンプリートで登場
Complete Live In Switzerland 1971 (One And One)

 キース・ジャレット時代のライヴといえば、なんといっても「セラー・ドア」でのライヴ及びそのボックス・セットが代表作だが、演奏内容は文句のつけようがないものの、ボックス・セットの監修者が「音を洗いすぎた」ために肝心のライヴとしてのリアリティや臨場感が霧消し、なんだかスタジオ録音のような音になっている。それが「セラー・ドア」ライヴが、ベストであると同時に空虚な思いを抱かせる要因となっている。結局のところ、同じ「セラー・ドア」ライヴでも、同じ音源が流用された『ライヴ・イヴィル』収録のヴァージョンのほうがはるかにライヴらしく、またマイルスらしく、さらに加えればキースらしい。

 最近目立っていい仕事をしているワン・アンド・ワンから、またしても注目のアイテムが登場した。そして強く思う、これこそがキース時代のマイルス・バンドのライヴにおける音というものだろう。今秋からスタートする待望の公式ブートレグ・シリーズで、もしもキース時代のライヴを出すようなことがあったら、頼むから、こういう音を参考にしてほしい。ライヴなのにライヴ録音なのかスタジオ録音なのかわからなくなるくらいきれいにする必要はなく、あくまでも「ライヴの音」にこだわってほしい。このCD、参考までにお送りしましょうか?

 この新装発売されたライヴも、最近再放送されたラジオ音源がソースとなっている。しかし、このワン・アンド・ワン盤に関しては、他のレーベルから出ている同一音源盤とは異なり、DJの喋りがなく、さらには放送では不完全に終わっていた部分まで完全に収録されている。こういう丁寧な仕事をしているワン・アンド・ワンさんに、この場を借りて敬意を表したい。

 演奏はすでにおなじみのパターンにのっとり、予想どおりに展開する。念のために説明すると、マイルスがワウ・ワウをかまし、ゲイリー・バーツが垂れ流し、マイケル・ヘンダーソンが重く黒いイチモツを振り回し、キースが腐ったトマトを食べて急に便意を催し、向かい側の駅のホームを右往左往しているようなキーボードを弾き倒す。

 まさに理想的にして期待以上のライヴというべきだろう。前述のブートレグ・シリーズ、もう「セラー・ドア」ライヴを出しましたからなどと言わず、再度キース時代の決定的ライヴを「ライヴの音」で出してほしいと思う。やっぱりこのCD,送ろうかな。

【収録曲一覧】
1. Directions
2. Honky Tonk
3. What I Say
4. Sanctuary
5. It's About That Time
6. Yesternow
7. Funky Tonk
8. Sanctuary
(2 cd)

Miles Davis (tp) Gary Bartz (ss, as) Keith Jarrett (elp, org) Michael Henderson (elb) Ndugu Leon Chancler (ds) Don Alias (per) Mtume (per)

1971/10/22 (Switzerland)

▼▼▼AERA最新号はこちら▼▼▼