ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー
ナウズ・ザ・タイム/チャーリー・パーカー
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 料理を食べて、舌鼓をうつだけの人は普通だが、なかにはどんな素材を使ってるのか気になる人もいる。あるいは、自分でも作ってみたくなって調理法が知りたい人もいるだろう。

 同じように、ジャズを聴いて、ただひたすら聴くことに喜びを見い出す人もいれば、「自分もこんなふうに演奏してみたい!」と思う人もいる。演奏するのは無理だが、せめていい音で聴いて再生してみたいと、そこに興味が向かった人種を称してオーディオマニアという。

 どこに興味が向くかは人それぞれであり、どういう楽しみかたが高級であるとか、下等であるとかいう議論は本来成立しないはずである。

 ジャズファンのなかには、「よい音で聴くべきだ」という人と、「音のよしあしはどうでもいい」と思う人とがいる。どちらかというと、わたしは「よい音で聴くべきだ」と考えるほうである。

 しかし、なにがなんでも絶対によい音で聴かないといけないかというと、そんなこともない。ラジカセでもiPodでも、ジャズを聴いて楽しめることもじゅうぶん承知している。

 同じように、「音のよしあしなどで音楽の本質は変化しない!」と生硬に主張するような人でも、そちらに興味が向かないだけで、内心ではよい音で聴けるにこしたことはないと思っているはずだ。

「パウエルがいまいちわからないのは、やっぱりスピーカーが安物のせいかなあ」などと、じつは密かに思ってたりするので、そこを責められると、よわい。

 いっぽう、「いい音で聴かないことには、ジャズの真髄はわからない!」と豪語するような人も、オーディオ装置に手間とお金を注ぎ込んだわりに、ミニコンポに勝てないような音しか出なくて、罪悪感があるものだから、自分もわからないのに真髄などというものを語りたがる傾向がある。

 ようするに、コンプレックスの反動で、極端なことを口にするだけで、両者の感性に、それほど開きがあるわけではないように思う。同じところで、同じ音楽を聴かせれば、同じように感動するのではないか。

 友人が遊びに来たとき、たまたま『ナウズ・ザ・タイム』のCDをかけてたら、突如、「パーカーがこんないい音のわけがない!」と叫びだした。彼は熱心なチャーリー・パーカー・フリークで、当然『ナウズ・ザ・タイム』の音源もボックスセットでもっている。

 ヴァーヴ・レーベルの音源は、録音が悪いとされるパーカーの演奏のなかでも、比較的音が良いのだが、それも承知の上で、彼は目をむいて驚いていた。

 ボックスセットと単品売りの『ナウズ・ザ・タイム』では、CDのマスタリングが違うせいだと思い込んだ彼は、すぐさまCDショップに走り、当店と同じ『ナウズ・ザ・タイム』を購入した。

 結果は予想どおり、『ナウズ・ザ・タイム』は『ナウズ・ザ・タイム』。少しは違うかもしれんが、音質にはそう大差ない。やはり音質の違いは、彼のスピーカーと当店のスピーカーのキャラクターの違いだったのだ。

 録音がよくないものを聴いても、彼はパーカーの熱心なファンになりえたが、よい音で聴くと、さらにエキサイティングにパーカーが聴ける。これこそがジャズとよい音の関係なのだ。

【収録曲一覧】
1. ザ・ソング・イズ・ユー
2. レアード・ベアード
3. キム
4. キム(別テイク)
5. コズミック・レイズ
6. コズミック・レイズ(別テイク)
7. チ・チ
8. チ・チ(別テイク)
9. チ・チ(別テイク)
10. アイ・リメンバー・ユー
11. ナウズ・ザ・タイム
12. コンファメーション