防衛省内にあるメモリアルゾーンでの自衛隊殉職隊員追悼式 (c)朝日新聞社
防衛省内にあるメモリアルゾーンでの自衛隊殉職隊員追悼式 (c)朝日新聞社

 安保国会の喧騒も終わり、世の中は何事もなかったかのような日常を取り戻す。だが、これから待ち構えているのは、“リアルな戦場”。日本国民が新たな「戦死者」と向き合わざるを得なくなる。考えなければならないのは、遺族への補償の問題だ。

 まず、自衛官も公務員なので、公務中の死亡に対して共済年金の遺族年金が支払われる。勤続年数や死亡時の階級に応じた退職金も支払われる。

 これとは別に、公務での死亡や重度障害が残った場合、国から「賞恤(しょうじゅつ)金」という弔慰・見舞金が支払われる。防衛省人事教育局によると、2009年度以降、計4件が支払われているという。現行では6千万円が最高限度額だが、イラク派遣時には、任務の危険さなどを考慮して例外的に9千万円まで限度額が引き上げられた。

 一見、手厚い補償と見えなくもないが、すでに自衛官の間から不安の声が出ている。山形県で自衛官専門のファイナンシャルプランナーとして相談に応じる元自衛官の佐々木拓也氏には、安保法案審議が注目された今夏以降、海外派遣に関する相談が多く寄せられているという。佐々木氏がこう語る。

「示されている賞恤金の額はあくまで上限で、全員にその額が支給されるわけではない。どのようなケースでどれくらいの額が支払われるのか事前にわからないと、残された家族の生活など人生設計が難しいという声があります。可能な限り基準を明確化していくことが、自衛官の安心につながるのではないでしょうか」

 防衛省人事教育局によれば、賞恤金の金額は、任務の危険度や障害の程度などにより、あくまで個々のケースごとに判断するという。

 もう一つのポイントは、自衛官のほとんどが加入している「防衛省職員団体生命保険」だ。佐々木氏が続ける。

「普通に支払われると思っている自衛官の方が多いですが、パンフレットをよく読むと『戦争その他の変乱によるとき』は原則として保険金が支払われないという契約になっている。これは一般の生命保険でも同じで、紛争で多くの死者が出たら保険会社が破綻(はたん)してしまうからです。実際は紛争の規模や亡くなった人数によって減額されて支払われるなど、保険会社の判断も変わってくる。他国軍やNGO職員が武装集団に襲われた場合などに、武装した自衛隊が救援に向かう『駆けつけ警護』で亡くなったらどうなるかなど、事前にはハッキリわからないのです」

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