作家・北原みのり氏の週刊朝日連載「ニッポンスッポンポンNEO」。北原氏は、国民は政治家を問い質し続ける必要があるという。
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カナダの次期首相、ジャスティン・トルドー氏のイケメンぶりに惚れ惚れする今日この頃、こんなニュースが流れた。新政権に不都合な質問を記者が投げかけた時のこと、彼の支持者から一斉にブーイングがあがった。その時、トルドー氏は支持者を制し、こう語ったのだ。
「我々はこの国のジャーナリストへ敬意を払う。ジャーナリストは、厳しい質問をすることが求められる」
ああ、どこぞの国の政治家たちとは大違い。不都合な質問をする記者を制する政治家がいたり、政府と違う意見のメディアへの制裁を匂わせたりするような国にいると、トルドー氏が、まるでディズニー映画のおとぎ話の主人公に見えてしまうよ。
先日、TBSラジオ「Session―22」を聴いた。荻上チキさんによる、自民党原田義昭議員へのインタビューが秀逸だった。
ユネスコが南京大虐殺を世界記憶遺産として登録したことを受け、菅官房長官がユネスコへの分担金や拠出金停止を検討すると発表した。この件を中心に、国際情報検討委員会委員長の原田議員に話を聞いたのだ。
インタビュー冒頭で、原田議員は今回の登録について「辱めを受けた」と怒りを露にした。主な理由は「虐殺はなかった」からだ、と。もちろん原田議員のこの考えは、日本政府の公式の考えとは違う。荻上さんは、誘導尋問しているわけではないのだが、核心を突く質問を冷静にあてるなか、「南京大虐殺はなかった」と原田議員が考える根拠のほとんどが、「知識不足」「嘘のデータ」によるものだということが明らかになっていく。さらに、「南京事件と呼ばれる行為は、どういったものだったのでしょう」という荻上さんの質問は素晴らしかった。一瞬ひるんだ後、原田議員はこう答えた。
優れた質問は真実と、その人の底を映す。正反対の意見を並べることが中立であるかのように捉えるような風潮が広まっている。並べることが悪いとは思わない。が、メディアの役割とは、問い質すことなのではないか。イケメンのカナダ次期首相が言うように。
日本人は平和ボケした、とよく言われる。「平和ボケ」とは、緊迫した国際状況に鈍くなっている、という文脈で語られがちだ。でも平和ボケとは、自分の国の恐ろしさを忘れることなのかもしれない。国家は力を振るって、何でもやる。権力を持たない民がやれることは、権力を問い質し続けることだ。
※週刊朝日 2015年11月13日号