「好きなモノに囲まれて楽しく暮らしたいが、自分亡き後、周囲に迷惑をかけたくない」(※イメージ)
「好きなモノに囲まれて楽しく暮らしたいが、自分亡き後、周囲に迷惑をかけたくない」(※イメージ)
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 料理研究家の谷島せい子さん(67)。同居していた母親を4年前に見送り、子どもはそれぞれ独立した。今は都内にある築45年のマンションに、愛犬ローリーと暮らす。

 この家で、最期まで過ごしたいと考えている谷島さんが着手したのが、「住み替え」ならぬ「暮らし替え」だ。「終のすみか」というと、なんとなく、もののない部屋をイメージしがちだが、取材に訪れてみると、その予想は心地よく裏切られた。

 リビングには木のテーブルや食器棚。料理教室も開くため、大きな大理石の作業台もある。大理石の裏のラックには数え切れないほどの大小の鍋にミキサー、フードプロセッサー。キッチン横にも食品保存用のガラスの小瓶や思い出の品が並ぶ。使い込まれた生活の道具は、落ち着いた居心地の良さを部屋に生み、雑然とした感じは不思議なほどしない。

 谷島さんのこうした「見せる収納」には理由がある。

「年をとると、どこに何をしまったか忘れちゃうの(笑)。だから、よく使うものは、目の届く場所に片づけるようにしました」

 一日の大半を過ごすリビングは、あえて“断捨離”を意識せず、好きなもの、大切なものを集めた。

「死んだ後を心配するより、生きている今の生活を充実させたいと思ったんです」

 一方で、徐々に処分も始めた。食器類は人に譲った。いずれ必要になるかもしれない介護ベッドのスペースのために、古い食器棚なども手放すつもりだ。

 一気に片づけるのではなく、その時々の体力や記憶力、不自由さなどに合わせた暮らしを心がけている。

「完璧な部屋を目指すのでなく、そのつど変えていく。ちょっとずつが、ちょうどいい」(谷島さん)

 住み慣れたわが家を、快適な終のすみかに――。ちょっとした暮らし替えのポイントについて、『60歳からの笑顔で暮らせる片づけ術』の著者で、シニアライフオーガナイザーの橋本麻紀さんは、こう助言する。

「亡くなった後を前提にした『生前整理』ではなく、自立して暮らすための片づけを考えてほしい。最近はブームのせいか、『捨てなきゃ』と思いつめる方もいますが、上手に整理をすれば、必要以上に捨てなくて大丈夫です」

 橋本さんは、谷島さんの収納は良い手本だという。

「シニアの場合は、視覚的にわかれば、忘れものや探しものが減る。収納家具に収まらないもの、存在を忘れたものは、自分が把握できる量を超えたと思って手放すことを考えましょう」

 維持管理の負担軽減だけでない。高齢者にとって片づけは安全に直結する。

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