最後のグループの渾身のライヴ
The Last Sextet In Netherlands 1991 (Cool Jazz)
先日、あるイヴェントの折に耳にしたのですが、近年、局地的に盛り上がっていた「80年代マイルスはダサい」という空気は、どうやら沈静化し、「やっぱり80年代もイイ」という至極当然の結論に落ち着きつつあるということです。あたりまえでしょう。
しかしこうした空気は、時代や気分によって絶えず「揺り戻し」現象があるわけで、たぶんまた「ダサくないと思ったらやっぱりダサかった」という声が高まる時期が巡ってくるものと思われます。したがって、最も肝要なのは、そのような声に惑わされず、音楽をドカンと全身で受けとめることでしょう。そうすれば世間の諸々など気にならないものです。
それはそれとして、「80年代マイルスはダサい」という空気が盛り上がっていること、そしてそれが沈静したことなどまったく知りませんでした。「そうなんですか、そんなことがあったんですか」という感じなのですが、評価というものは時代によって少なからず上昇下降をくり返すもので、しかしながらその要因は音楽ではなく自分の耳や感性にあるわけで、そう考えれば人間が下す判断というものは残酷なものではあります。
マイルスの生涯とは、以上のように、聴き手側の都合による肯定と否定の反復作業によって推移し、それは今後も永遠に変わらないのでしょう。そして思うに、現在はまったく評価されず(一般的にはその材料さえ与えられていない)、しかしながら後年絶対に正当な評価を与えられるのがラスト・セクステットであることは、ほぼ間違いのないところです。問題は、それがいつになるのか。ひょっとすると30年先なんてこともありえることを思えば、そもそも「評価」とは何なのか、疑問ではあります。
今回ご紹介するのは、生涯最後のライヴ(1991年8月25日ロサンゼルス)の約1か月前、オランダでのライヴ。1曲目の《パーフェクト・ウェイ》から最後の《リンクル》まで、当時のライヴが要領よく1枚に収められています。
それにしても恐るべしは最後のセクステット。この緊張感とテンションの高さは、先に触れた「80年代マイルスはダサい」と声高に叫んでいた人たちにこそ聴いてほしいものです。ただし、たしかに80年代マイルスの音楽並びにグループには緊張感に欠けるものもあれば冗長に思えるものも少なくなかった。しかし80年代末期から90年代にかけては再び緊張感を取り戻し、とくにパーカッションを排除してからの編成になって以後のライヴは、それはそれはすばらしい。まだ聴いていない人は、まずは1枚物のCDから入門されてはどうだろう。その意味で、このCDなどは推薦に値します。それではまた来週。
【収録曲一覧】
1 Perfect Way
2 Star People
3 Hannibal
4 Penetration
5 Amandla
6 Wrinkle
(1 cd)
Miles Davis (tp, synth) Kenny Garrett (as, fl) Deron Johnson (synth) Foley (lead-b) Richard Patterson (elb) Ricky Wellman (ds)
1991/7/14 (Holland)