かつてこれほど長い《ジャン・ピエール》があっただろうか
Jean Pierre Live 1982 (Cool Jazz)
いまにして思えば、復活した帝王が率いていたカムバック・バンドは、ハード・ロック(マイク・スターンのギター)やファンク(マーカス・ミラーのベース)や異国情緒(ミノ・シネルのパーカッション)等が混然一体となった「フュージョン・バンド」ではあったが、そのルーツに「ジャズ」があることが具体的に顕在化した、きわめて珍しいバンドだったのかもしれない。つまりマイルスの復活とは、トランペッターとしてのマイルス個人のジャズへの再接近にとどまらず、バンドを上げてのジャズ回帰だった。しかしながら、そのように聴こえなかったのは、前述したハード・ロックやファンクといったさまざまな要素が巧みに調合され、それまでどこにもなかった「新しいかたちのサウンド」として構築されていたからだろう。
カムバック・バンドはジャズだったという実態に近い仮説に立てば、この1982年カリフォルニア、バークリーにおけるライヴで、あのチャーミングというべきか間が抜けているというべきか《ジャン・ピエール》が30分を超える演奏になったことは不思議でも突発的なことでもなく、ジャズ・バンドとしての素顔がさらけ出された瞬間と考えていいだろう。演奏は即興的に展開し、あれよあれよというまに30分に達する。おそらくマイルス史上、最も長い《ジャン・ピエール》はこのヴァージョンではないだろうか。
以上、いつもとはちょっと違う「ジャズ評論家的文章」で攻めてみましたが、いかがだったでしょうか。内容に関しては特につけ加えるべきことはなく、オーディエンス録音ながら、音質も悪くないと思います。すでに大量に出回っているカムバック・バンドゆえ、ベストともマストともいいかねますが、まずは順当かつ平均点を軽く超えるアイテムであることは間違いありません。
ところで、このコーナーでは、ボブ・ディランより20年遅れてスタートしたブートレグ・シリーズの向上を目的に、定期的に企画を提案していますが、東西「フィルモア」のコンプリート化の次には、どうでしょう、カムバック・バンドのボストン「キックス」のコンプリートというのは。このときのライヴはすべてライヴ・レコーディングされ、加えて大半が撮影されたともいわれています。ライヴの一部は『ウイ・ウォント・マイルス』で聴くことができますが、とてもあの分量では満足できません。いや、これまでは満足してきましたが、もう限界です。連日連夜の白熱のパフォーマンスを完全版としてリリースしていただきたいと、ここで強くリクエストしておきたいと思います。それではまた来週。
【収録曲一覧】
1 Back Seat Betty
2 Ife
3 Aida
4 Jean Pierre
Miles Davis (tp, synth) Bill Evans (ss, ts, fl, elp) Mike Stern (elg) Marcus Miller (elb) Al Foster (ds) Mino Cinelu (per)
1982/8/1 (Berkeley)