15歳でプロ棋士になって30年。25歳で前人未到の7大タイトル独占を果たし、通算勝率7割以上。史上最強の棋士ともいわれる羽生善治(はぶ・よしはる)さんが、4日前に王位戦防衛を果たし、2日後には王座戦というタイミングで、作家・林真理子さんとの対談を行なった。そこでは、棋士の知られざる天才ぶりが語られた。
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羽生:対局中の景色とかよく覚えているんですよね。去年ぐらい、対局場所の近くで盆踊りをやっていて、「東京音頭」を聞きながら指していたんです。そうしたら次の日も、その次の日も、「東京音頭」が頭の中から消えないんですよ(笑)。すごく集中した状態で聞いたので。
林:それは大変ですね(笑)。対局中って、頭がフルマラソンしてるような感じなんでしょうか。
羽生:先を読んで計算しているときもあるし、過去のことを必死に思い出そうとしているときもあるし、大ざっぱに方向性とかビジョンとかを探そうとするときもあるし。プロセスがかなり違うので、それでくたびれるところがありますね。
林:調子がいいときには、盤や駒がいつもより優しげに見えるとか、そんなことってあるんですか。
羽生:朝起きて「よし、絶好調!」というときは、あんまりよくないんですよね。そこでピークがきちゃってるんで。ちょっと疲れているぐらいのほうが余計なものがそぎ落とされて、感覚が鋭くなっていることが多いです。それが過ぎるとくたびれちゃうので、微妙なところですけど。
林:ボクサーは相手の筋肉を見ながらパンチを予想するっていいますけど、将棋にもそういうところあります? 相手の息づかいとかで次の一手を予想したり。