松原さんはアイデア豊かな方で、大祭のとき、特別な企画をすることがある。保存会による火縄銃の実演、所蔵している「信長公記」の展示などだ。この8月にお会いしたら、「今年の大祭では、伝統的な鷹狩りを披露する予定です」とのことだった。伝統的な鷹狩りを継承する保存会の方々が行うそうだ。

 先日、織田家大名家の一つで、信長の末弟、織田長益(ながます・茶人の有楽斎[うらくさい])の末裔(まつえい)である織田裕美子さんの家にも「信長公記」があることを知った。裕美子さんから、建勲神社の「信長公記」と合わせ、ユネスコの記憶遺産への登録をめざし、文部科学省に候補として応募したという連絡があったからである。集まった候補は16件。国内の有識者会議でそこから2件を選び、2016年にユネスコに推薦する。候補の中には伊能忠敬の地図、杉原千畝(ちうね)の関連資料など強力なライバルが多いので、首尾よく選ばれるかはわからないが、そうなったらうれしい。

 それは記憶遺産という箔(はく)がつくからではない。織田信長を外国人がどう評価するかに興味があるからだ。私はもっと多くの外国人研究者が日本史を研究すれば、新しい視野が開けると考えている。作家の塩野七生さんはルネサンス期やローマ史について、知的かつ無類におもしろい本を次々に世に送ったが、その逆に日本の歴史を書く外国人が出てきてよいはずだ。「信長公記」がそうしたきっかけになればと思うのである。

週刊朝日 2015年9月25日号

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