BGMにジャズをかけながら散髪する。
一言で書けるほど簡単だけれど、実際にやるとなると、それはもういろいろ苦労があるものだ。
まず思いつくのが、いわゆる”ジャズ喫茶方式”で、アナログレコードを片面ずつかけかえるという、最もオーソドックスなスタイル。
レコードが終わりそうになると、ササッとプレーヤー前に移動。すかさずボリュームを下げて針を上げ、次のレコードにかけかえる。その間にホコリがついてたら拭かないといけないし、なんだかんだやってると、1分、2分くらいはすぐに経ってしまう。
無音の状態で、長々とお客を待たせるなんて、気の弱いわたしには到底できない。レコードをかけるのは早々に諦めて、カセットテープに録音したものを流すことにした。
“ジャズの聴ける理容室”オープン当時の1988年ごろ、今では懐かしいオートリバースのカセットデッキを買い、120分のカセットテープにレコードから録音するのが定休日のわたしの仕事だった。
へたをすると、テープに空白ができて、それこそ何分も無音状態が続いてしまうので、レコードのクレジットにある録音時間をメモしながら、テープのギリギリまで録音できるよう曲を振り分けたものだ。
そうこうしてるうちに、レコードからCDへと時代は移ってきた。あっという間にレコード屋からアナログが消え、CDばかりになってしまった。
最後の最後までアナログでねばっていた当店も、CDプレーヤー購入を余儀なくされた。常連客の電気屋さんに、どんなのがいいかと訊ねると、「デジタルだから、(高いのも安いのも)どれも音は同じですよ」と親切に教えてくれた。そんなわけないのはすぐにわかったが、アドバイスに従って、いちばん安いCDプレーヤーを注文した。
CDは、便利である。
まず、針が跳ぶ心配がない(たまにはあるが)。それに、長いのだと74分も勝手に演奏してくれる。15分ごとにかけかえるのはタイヘンだが、6~70分に一回かけかえるだけなら、そう苦にもならないし、扱いも簡単だからアシスタントにかけかえさせることもできる。
問題は、同じアーチストの演奏が別テイクを含めて70分も続くと、ゲップが出そうになることくらい。そこへいくと、いろんなミュージシャンが入っているコンピレーション盤は重宝する。
ブルーノートの音源を、テーマ別に編集した『Blue Break Beats』や『Blue 'N' Soul』、『The Blue Testament』なんかは、ジャケットも良く、内容も充実していて気に入ってた。
本コーナーで、やたらとコンピレーション盤が登場するのも、そういった事情が少なからず影響してるのである。
CDの時代も熟成期に入ってくると、すごいものが登場してきた。”CDチェンジャー(!)”なんと、25枚ものディスクが格納でき、それがジュークボックスのように連続演奏できる。しかも、ただ順番にかかっていくだけでなく、25枚のCDから一曲ごとにランダムにかけかえることもできるという、夢のような仕様。CDをかけかえていたアシスタントは、自分の出番がなくなったと思ったのか、辞めた。
夢のようなCDチェンジャーにも欠点はあった。ピックアップレンズの掃除ができないのだ。CDチェンジャーだけに限らず、CDプレーヤーは、毎日10時間以上も使っていると、CDの読み取りが悪くなって、すぐに故障した。当店だけで、9台のCDプレーヤーを乗り潰している。じつに二年に1台のペースだ。
そして、いよいよ当店の再生系はパソコンへと移ってきた。これはCDよりもさらに便利である。ちょっと工夫すれば、レコードのように「A面三曲だけかけて、次は別の盤のB面を」、なんてことも可能。しかも、やりようによってはCDプレーヤーよりもずっと音が良い。
手持ちのCDを、次から次へとハードディスクへコピーする。大容量の外付けハードディスクだから、全部のCDを入れておけるし、めったなことでは壊れない。と、思ったら、大量のCDを読み取りしたのが祟って、パソコンのCDドライブが故障した。いつまで経ってもジャズを聴かせる苦労はなくならない。
【収録曲一覧】
1. Down By The Riverside-Benny Green
2. The Congregation-Johnny Griffin
3. The Preacher-Horace Silver
4. Preach Brother-Fred Jackson
5. Reverend Moses-Lou Donaldson
6. Hey Hey-Andrew Hill
7. Down By The Riverside-Dodo Greene
8. Go Down Moses-Grant Green
9. A Baptist Beat-Hank Mobley
10. Pentecostal Feeling-Donald Byrd
11. Christo Redentor-Duke Pearson
12. Amen-Donald Byrd