戦後の書店の大きな変化の一つとしては、女性の活躍も挙げられるかもしれません。今のジュンク堂池袋本店にしても、店内の企画の中心はおおむね30代後半の女性たちが担っています。これは私が働きだした女性に権限のない頃とは、ずいぶん変わりました。

 書店員の労働条件は厳しいのですが、「この業界で生きていくと決めた」とはっきり言ってくれるような、店内でも主力の女性たちはみんな、家の中で本に囲まれて育ったようなんですよ。実利以上に本そのものを大事にする、いわゆる「団塊ジュニア」の彼女たちの存在も、ある意味では戦後民主主義が次世代に生んだものではないでしょうか。

 他の変化としては、やっぱりネットやコンピューターの普及かと思います。

 今は、本というのは検索機でお客さん自身が探すものになりました。店の主役は、それこそかつての池袋リブロのようにムダなく作られた「棚」ではなくて、ムダも含めて多めに集めた本から探す「お客さん」になりました。「棚」が書店の主役たりえていた時代が、リブロ的な文化を代表とする流れの最盛期だったとも言えるのかもしれません。

 与えられたものを読むだけではないという意味で、書店は成熟したとも言えるでしょう。だから、ネット書店が伸びる時代だとも理解できます。しかし、多様性がある中から真の意味で新しい本が選ばれているとは、まだ言いがたい。

 受け取れる刺激がわかりきった安易な本が売れがちだという現実には、危機感がありますね。読者が歯ごたえのある本を求めていなければ、奥の深いものを書く人は存在できない。

 その点で、村上春樹さんのように人気と読みやすさを備えながらも、ものすごく複雑な世界を開拓し続ける作家がいるのは、とてもありがたいことなんです。

週刊朝日 2015年8月28日号