ジャーナリストの田原総一朗氏は、安全保障政策について安倍内閣の真意をこう捉える。

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 憲法とは政府の行動を縛るものであり、政権の当事者にとっては、極端に言えば邪魔な存在である。たとえば安保政策を自在に展開するためには、憲法の制約はないほうが良い。

 私は、何度か自衛隊の元陸将や元海将と討論したことがある。彼らはいずれも、現在の自衛隊は「戦えない存在」だと言った。アメリカやイギリス、中国やロシアなど世界の国々の軍隊は、当然ながら「戦える軍隊」だ。「戦える軍隊」というのは、いわば「ネガティブ法」で管理されているのだという。「ネガティブ法」とは、「これはしてはならない」と規制されている以外のことは何でもできるということのようだ。

 それに対して日本の自衛隊法は「ポジティブ法」で、「これはしてもよい」とされている以外のことはすべてできないことになっていて、これでは、実際には「戦えない」という。だから、いざ「戦おう」とすれば、あえて自衛隊法違反の行動をしなければならないのだという。

 つまり、元陸将や元海将たちにとっては、自衛隊法は「戦う」のに邪魔な存在であり、いざ「戦う」ことになれば、自衛隊法は「関係ない」ということになるのだろう。礒崎陽輔首相補佐官が、集団的自衛権の行使容認について「法的安定性は関係ない」と発言したのは、これと同じ意味なのではないか。

 それにしても、安倍内閣の安全保障にかかわる政治家たちは、集団的自衛権の行使をどのようにとらえているのだろうか。

 
 日本は憲法9条によって、基本的には専守防衛しかできない。そこで集団的自衛権行使のために、公明党との間で、武力行使の新3要件を閣議決定した。日本と親しい国が攻撃を受けたとき、そのことが我が国の存立を根底から脅かす危険性が明白にある場合にだけ、集団的自衛権の行使が容認されるというのである。

 戦後70年の間にアメリカは、ベトナム戦争、湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争など、幾度も戦争を行ってきたが、いずれもアメリカが仕掛けた戦争である。アメリカがいずれかの国から先に攻撃されたという例はない。それにオバマ大統領は、「アメリカは世界の警察の役割はしない」と宣言している。つまり、これまでの戦争は、アメリカ人の認識では「世界の警察」の役割を演じていたということになるのであろう。

 いずれにしても、今後ともアメリカがどこかの国から攻撃されるとは考えられない。ということは、日本が集団的自衛権を行使するような事態は起き得ないのではないか。

 ある自民党の幹部に問うと、「9.11のようなケースは起き得る」と反論された。2001年9月11日、ニューヨークの世界貿易センタービルやワシントン郊外のペンタゴン(国防総省)がアルカイダ系の人間たちに自爆テロを受けた事件だ。このときブッシュ大統領は、「これは戦争だ」と言い切り、アフガン戦争やイラク戦争を始めた。

 私は、元防衛相の森本敏氏に「9.11事件は日本の存立を根底から脅かす事例と言えるか」と問うた。森本氏の答えは「否」であった。

 9.11のようなテロ事件はこれからも起きる危険性はある。しかし、そのような場合に、森本氏のとらえ方とは異なって、「日本が参戦すべきだ」という意見がけっこうあるのではないか。そして、そのことを危ぶんでいる国民が多くなっているのである。

週刊朝日 2015年8月21日号

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田原総一朗

田原総一朗

田原総一朗(たはら・そういちろう)/1934年、滋賀県生まれ。60年、早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。64年、東京12チャンネル(現テレビ東京)に開局とともに入社。77年にフリーに。テレビ朝日系『朝まで生テレビ!』『サンデープロジェクト』でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。98年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ城戸又一賞を受賞。早稲田大学特命教授を歴任する(2017年3月まで)。 現在、「大隈塾」塾頭を務める。『朝まで生テレビ!』(テレビ朝日系)、『激論!クロスファイア』(BS朝日)の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数

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