ルー・テイクス・オフ/ルー・ドナルドソン
ルー・テイクス・オフ/ルー・ドナルドソン
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 ジャズに詳しくない人でも、ジャズが聞こえてくると「ああ、これはジャズですね」というし、当店でもBGMにラテン音楽をかけたりすると、「んっ?これはジャズじゃないですね?」といわれたりする。

 ジャズかジャズでないか、いったいどこで判別してるのだろう?

 使ってる音階がどうでコード進行がどうだとか、リズムが4ビートだとか、いろいろ専門的な話を抜きにして、スパッと解答を述べるなら、「あやしいのがジャズ」という答えに辿り着く。

「ピンクパンサーのテーマ」も、「ルパン三世のテーマ」も、「妖怪人間べム」の主題歌も、みーんなジャズである。よって、あやしいものが好きな人ほどジャズファンになりやすい傾向がある。

 とはいっても、ジャズファンのあやしさなんて、まだまだ可愛いもので、オーディオの世界は魑魅魍魎が跋扈するトワイライトゾーン。

 当コンテンツでも、CDの縁をマジックで塗るとか、南アフリカの砂で音が良くなるとか、いろいろあやしいことを書いてきたけれど、実情はまだまだこんなものではない。あんまりあやしいことを書くと連載を干される危険があるので、これでも抑えて書いているのだ。

 ちなみに近頃のマニアの話題はもっぱら人工衛星(!?)

 地球のまわりをぐるぐる回っているGPS衛星の電波を受信し、そのクロックを利用してCD等デジタル音源の音質を改善しようというのだから、さすがのわたしも開いた口が塞がらない。

 通常、安価なものから高級品までCDプレーヤーには独自のクロックが内蔵されているが、この精度がたかいほど音質がよいとされる。最近の再発CDでも、高精度のセシウムクロックでリマスターされた盤がずいぶん出回っているようだ。

 この産業用セシウムクロックをも上回る精度の(軍事用?)アトミッククロックを搭載したGPS衛星を利用すれば、(理論上は)最高に素晴らしい音質が手に入るはずである。なにしろ、ミサイルでピンポイント攻撃できるほどの精度だから、破壊力は凄まじい(そもそもこんなものに興味を持った時点ですでにマニアの心は破壊しつくされている)。

 で、実際にそのクロックとやらを使うと音が良くなるのかいうと、らったららったららったららたらた♪と、これがまた凄い変わりようだからオーディオマニアはやめられない。俄然ハッケンサックのヴァン・ゲルダースタジオ内の見通しがよくなり、今まで聴いてたのはなんだったのか!?と、自分でもあやしすぎて書くのがちょっと恥ずかしくなる。

 1957年、ソ連が初の人工衛星スプートニク打上げに成功したが、半世紀以上を経た今、まさか人工衛星を使ってジャズを聴く時代が来るとは、ルー・ドナルドソンだって思わなかったに違いない。

【収録曲一覧】
1. Sputnik (2008 Digital Remaster) (Rudy Van Gelder Edition)
2. Dewey Square (2008 Digital Remaster) (Rudy Van Gelder Edition)
3. Strollin' In (2008 Digital Remaster) (Rudy Van Gelder Edition)
4. Groovin' High (2008 Digital Remaster) (Rudy Van Gelder Edition)

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