コメンテーターの一人として番組に出演し、「このままでは裸の総理になってしまうのではないか」と首相に迫った漫画家のやくみつる氏がこう語る。
「火事の例えでは相手は未知の放火犯ですが、現実には経済でも日本と密接な関係にある中国や、友好国でもあるイランを想定しているはず。火事を未然に防ぐ交渉能力のほうが大事です。自衛隊の活動範囲を世界中に広げたことも、『母屋』と『はなれ』では説明できていない。例え話をすればするほど突っ込まれる点が出てきて、『自爆』してしまったのではないか」
世論調査では安保法制について、約8割が「説明が不十分」と答えている。安倍首相の「プレゼン能力」で状況を打開できるのか。メディアと政治の関係に詳しい立教大の逢坂巌講師がこう語る。
「火事に例えたのは『戦争法案』との批判を避けるためでしょう。『正面からの議論を避けた』と批判されるリスクはあるが、安倍首相は最初から反対派の説得は諦め、まだ賛否を決めていない中間層へのアピールを狙ったのでは。自らの言葉で語ったことには、一定の効果があったと思います」
だが、首相自らのメディア露出は「両刃の剣」でもある。
「今の政権にはスポークスマン役がいない。メディアに出て国民にわかりやすく説明する役目を引き受ける若手議員がいれば、ネットで首相自身が『炎上』するリスクも軽減できるし、国民の印象も違ってくるのでしょうが……」(逢坂氏)
必要なのは「抑止力」より「説得力」ではないか。
※週刊朝日 2015年8月7日号