最近は「下流老人」と呼ばれる高齢者の貧困が話題になっているが、独居老人が幸せな老後を過ごすためにはどうしたらいいのか。
そもそも単身高齢者は最低いくらあれば大丈夫なのか。総務省による60歳以上の単身無職世帯の「家計調査報告」では住居が1万3千円台となっているが、賃貸の場合はその何倍にもなる。生活の中で大きなウェートを占める住居費をストックすることが、まずは基本だ。
「老後の安心は、自分のリスクを洗い出すことと、平均余命を知ることから始まります。今70歳ならまだ10年以上の余命があるのだから、経済的な組み立てをすることが大切です」
そう話すのは「単身けん」(ひとりで生きるために、単身者の生活権を検証する会)の発足以来、事務局長を務めた石川由紀さんだ。
「もうひとつは精神的な自立と覚悟。ひとりでハッピーに生きるにはそれも必要です」
単身けんは1990年に発足した。石川さんによれば20年前と今では単身者が抱える問題が変わってきたという。例えば、昔の3大困りごとは「住まい」「お墓」「保証人」だった。目下の主な問題は「詐欺」「孤立」「認知症」だ。
「振り込め詐欺をはじめ訪問販売や通信販売など、一人暮らしはターゲットにされやすい」(石川さん)
勧誘話はやんわり、でもしっかり断る。空き巣などの防御策にもなるので、一人暮らしだと悟られないように洗濯物を室内干しすることも大事だという。
おひとりさまのメリット。一言で言えば、すべて自分の都合と独断で決められること。つまり自分の老後を自分で好きにデザインできること、と石川さんは言う。
「ホームを選ぶのも家を売るのも自由。でも、終活だからといって断捨離をしすぎると思い出がなくなって認知症になりやすいと思う。この湯飲みはあの人と旅行に行ったときのものというように、さりげない日常を思い出せることも大切です」
NPO「りすシステム」の森妙子さんは次の点を挙げる。
「ひとりになったらまず自分ではできない死後のことをどうするかを考える。それを決めてこそ、残りの人生が充実していくのだと思います」
りすシステムは、お墓や葬儀の仕方を決めたり、入院などの保証人業務を生前に請け負う。森さんはりすシステムの生前契約スーパーバイザーであり、契約者でもある。本人も8年前に夫を亡くした子供のいない「おひとりさま」だ。
「私自身、夫の死後に胆石になり救急車を呼び入院したのですが、看護師さんに契約カードを見せるとすぐ連絡をしてくれて、NPOのスタッフが30分以内に病院に駆けつけてくれて安心したのを覚えています」
森さんは言う。
「高齢の方の抱える問題は多岐にわたりますが、“家族”の役割を契約という形でサポートします。家の片付け、ペットのケア、買い物や旅行、美容院の付き添いもあります。手を握ってのみとりも何度もしてまいりました」
生前契約ができる団体はほかにもあるので参考にしてほしい。
※週刊朝日 2015年7月17日号より抜粋