コンプリート・ウエンズデイ・マイルス・アット・フィルモア:セパレート・ヴァージョン
コンプリート・ウエンズデイ・マイルス・アット・フィルモア:セパレート・ヴァージョン
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全マイルス者&ミュージシャン必聴&イヴェントのお知らせ
Complete Wednesday Miles At Fillmore : Separate Version (So What)

 3種類からなるフィルモア水曜シリーズの2枚目は、ご覧のような異色ヴァージョン。タイトルは「セパレート・ヴァージョン」となっているが、これを説明するのはものすごくむずかしい。これこそ「聴かなければわからない」の典型だが、要はミュージシャンの細かい動きを知るために、楽器ごとに音のバランスを意図的に変えたヴァージョンということで、わかります?

 とはいえ、これは通常の人工的なマイナス・ワン的なニセモノではなく、本来のマルチ・トラックにまで遡り、各楽器ごとに新たにミックスダウンをほどこし、まったく新しいセッティングでCD化したもの。これでわかります? そうですか、ますます混乱してしまいましたか。うーむ。

 ただし急いでつけ加えておくと、たとえば冒頭からの5曲(実質4曲)は、チック・コリア(エレクトリック・ピアノ)とキース・ジャレット(オルガン)のダブル・キーボードがフィーチャーされている。両者のソロ・パートはもちろん、マイルスやスティーヴ・グロスマンのバックでどのような演奏をくり広げていたか、これによって明確にわかるようになった。しかしながらチックとキースの音だけではなく、その他の音も小さく入っている、したがって現在地を把握しながら楽しめるようになっている。とまあ、そういうことであります。

 こうしたアプローチによって、前述のチック&キース組をはじめ、デイヴ・ホランドとジャック・デジョネットのリズム組、マイルスとグロスマンとアイアート・モレイラのトリオ組と、3パターンによる演奏が収録されているわけです。これによって各メンバーの動きが細大漏らさず理解できるという、マルチ・トラックが入手できたからこその快挙。これぞまさしく「解体新書」と呼ぶべき世紀の発掘でしょう。マイルスの有名な言葉「何も弾くことがなかったら、何も弾くな」「最少の音で最大の効果を狙え」がどういうものだったのか、実際に理解することができます。とくにデイヴ・ホランドのベース!

 そして同シリーズの3枚目が、デラックス・エディションです。先週ご紹介したマスター・ヴァージョンとオルタネイト・ヴァージョン(ミックス違い)をカップリングした2枚組。ジャケット・デザインもマスター・ヴァージョンとほぼ変わりなく、オルタネイト・ヴァージョン目当ての人は、くれぐれも間違いのないようご注意ください。これもまたネイキッドな姿がわかる「もう1枚の水曜日」といえるでしょう。

 さて最後にイヴェントのお知らせです。総額数百万のオーディオセットでデッカ時代を中心としたローリング・ストーンズのアナログを聴き倒す会を行ないます。8月4日、14時から16時まで。場所は新宿オーディオユニオンです(入場無料)。お時間のある方は、ぜひお越しください。それではまた来週。

【収録曲一覧】
1 Warming Up & Introduction by Bill Graham
2 Directions
3 The Mask
4 It's About That Time
5 Bitches Brew-The Theme
6 Warming Up & Introduction by Bill Graham
7 Directions
8 The Mask
9 It's About That Time
10 Bitches Brew-The Theme
11 Warming Up & Introduction by Bill Graham
12 Directions
13 The Mask
14 It's About That Time
15 Bitches Brew-The Theme
(2 cd)

1-5 : Chick Corea (elp) Keith Jarrett (org)
6-10 : Dave Holland (b, elb) Jack DeJohnette (ds)
11-15 : Miles Davis (tp) Steve Grossman (ss, ts) Airto Moreira (per)

1970/6/17 (NY)