──22年夏の参院選も追いかけた。「ヒリヒリしそうな現場」として選んだのは、立憲民主党の菅直人元首相による候補者の応援活動だ。

ダースレイダー:菅さんはツイッターで日本維新の会の政治家をヒトラーになぞらえたりして、抗議を受けてもひるまずに「闘うリベラル派宣言」をしていたんです。

プチ鹿島:一方で週刊誌などに立憲内部、特に上層部の意見として「菅直人、やりすぎ」というような記事が出てきた。それを見て僕らは「実は菅さん、立憲の上層部に対しても活を入れているんじゃないのか?」という見立てをしたんです。

ダースレイダー:今回の映画のなかでも、鹿島さんは菅さんにしつこく「立憲の執行部は、菅さんの『維新と戦う』っていう姿勢を歓迎してないんじゃないか」って聞いている。結果、いまの立憲の状況につながる伏線になりましたよね。

プチ鹿島:答え合わせの映画でもあるわけです。

──菅氏を追いかけ、大阪に乗り込んだ2人は、自民党松川るい氏、立憲の辻元清美氏ら各候補者にもアタック。その反応からそれぞれの考えや個性が浮かび上がる。そして7月8日金曜日、あの事件が起こる。

ダースレイダー:大阪のホテルで「ヒルカラナンデス(仮)」の配信を準備していたら、十数分前に「安倍晋三元首相が銃撃された」というニュースが飛び込んできて。

プチ鹿島:まだ何もわからないうちから、「ほら、普段から安倍さんの悪口を言う奴がいるからだ」という人たちが出てきて、ひどかったですよ。(政権に対する)論評や批評を「悪口」と定義して「もうお前ら黙ってろよ!」っていう圧がすごくて、さすがに僕らもギョッとしてしまった。

ダースレイダー:僕らの政治をネタにするスタンスが不謹慎だと思われるのかと、一瞬、止まってしまったんですが、でもいや、違うだろと。

■速報から夜まで映画で共有する

──2人は配信を終えてすぐ、大阪の街で撮影を続行した。映画には事件直後の緊張や、候補者たちの対応も映っている。

プチ鹿島:あの日の空気みたいなものを、絶対もう一回、思い出さなくちゃいけないと思うんです。みんなしれっとなかったことにして先に行こうとしているけど。

ダースレイダー:公式な死亡発表がある前から、安倍さんと親しかったと称する人が「亡くなったようだ」と我先にと安倍さんとの2ショット写真をネットにあげていて、非常に醜悪なふるまいだとあぜんとした。僕らはたまたま、あの日ずっとカメラを回していて、速報から夜に至るまでの一日の記録がある。それを映画というかたちにして共有することで、いろんな人に「自分は、あなたはこのときどうしたか。どう思ったか」を考えさせることができる。今後の日本社会にとって大事なことだと思うんですね。

(フリーランス記者・中村千晶)

週刊朝日  2023年2月24日号より抜粋

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