夫「みんなから人生相談をされていたんです。俺のほうが年下だったように思うんだけど、不倫の悩みを聞いたのが新鮮だった」

妻「何かというと『正(しょう)ちゃん』と言われて、人気があったわよね。ゴーゴーとかも上手で」

夫「新宿で、よく踊っていました。意外とうまいんですよ(笑)。でも、この人、いつもキツイことを言うんです。『エヘラエヘラしていたんじゃダメよ』とか。あれはどうしてだったの?」

妻「先に議論を吹っかけてくるから。『吉本隆明の本を読んだことはあるか?』『学問とはどういうことか言ってみなよ』って。もうムカムカしてきて(笑)」

夫「あれは反応してくれるのが嬉しくてねえ。香久子さんは関西の人なんだけど、議論を吹っかけてもマジメに返してくるものだから、ちゃんと向き合わざるをえなくなるというのかなあ。いきなり『笑ってごまかさないで』だからね」

妻「ふふふふ」

夫「だけど、僕の『表現をしたい。詩を書きたい』という思いを引き出してくれて、褒めてくれるんですよ」

妻「『そのフレーズいいわ、こういうのは書けない』とか言って、だいぶ持ち上げましたから(笑)」

夫「ずいぶん吉本隆明をパクってはいたんだけど」

妻「彼は私の中に眠っていたものを引き出してくれる感じでした。高校生のときは、上の人の言うことを黙って聞く感じで、親に反発したこともなかったですから。そういえば付き合いはじめのころ、友達の下宿に集まっては、私と正ちゃんとで『はい、ヒデとロザンナでぇーす』と漫才のようなやりとりをしていたんです」

(聞き手・朝山 実)

週刊朝日 2015年4月24日号より抜粋

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