作家の室井佑月氏は、自身のホステス経験を踏まえて、メディアの扱う情報の出し方についてこういう。

*  *  *

 ホステスをしているときに、言いたくないことは言わない、そのかわり言ってもいい事実は、聞かれてなくてもしゃべりまくる、という技術を学んだ。

 これがどういう効果を生むかというと、秘密がない開けっぴろげな人に見えるようだ。

 ほんとうのところは、どうでもいいことを過剰に話しているだけなのにね。ま、言いたくないことは言わないだけで、嘘は言っていないわな。

 あたしがなぜこんな話をするかというと、このところの報道にもこれに似た感じをうけるからだ。

 ここんとこ、テレビをつけると「川崎の少年リンチ殺人」と「家具屋の喧嘩」のことばかり。

 川崎の少年リンチ殺人についていえば、同世代の子のいる母親として、どうしてこんな悲惨な事件が起こったか知りたくもあった。

 しかし、1週間以上、連続して、電波を流し伝えることなのかね? 犯人の逮捕が遅かったこともあるんだろうけど。

 被害者は当時まだ中学1年生の13歳。犯人逮捕という新たな展開がなかったためか、メディアは被害者側の家族構成や、生活環境などを洗いまくった。

 被害者遺族がそんなこと望んでいるわけない。あたしはこれは、セカンドレイプみたいなものだと思う。

 視聴者は、少年の生い立ちを知り、

(うちとはぜんぜん違っているから大丈夫なんだわ)

 そう考えて安心しろってか。

 たくさん時間を割いたので、テレビ局はもうこの件についてはブームは去ったと、犯人逮捕をさらっと報道するだけかもな。加害者も未成年らしいし、弁護士がつくだろうから、面倒臭いことには巻き込まれたくないだろうし。

 すると、今度は週刊誌あたりが、加害者の生い立ち情報合戦を繰り広げるかもしれない(この原稿が出るころにははっきりする)。

 あたしが今、なにを言いたいかというと、メディアがおかしいってこと。

 あたしたちに家具屋の喧嘩情報は必要か? 必要ないわな。自分の情報キャパシティーが、こういった情報で埋められていくのが腹立たしい。

 福島第一原発から漏れている高濃度汚染水が海に流れていた件はどうなった?廃炉に向けた工程表に遅れがあるって言っている人がいるけど、ぜんぜんニュースにならないね。

 辺野古の件はどうなった? 移設反対派2人が米軍に拘束され、県警に不当逮捕されたみたいだけれど。

 政治家たちの金の問題も、一瞬だけ騒ぎ、そこから深く追及しようとしない。天皇陛下や皇太子さまのあれだけの平和への願いも、軽く扱われる始末。

 この国の一員として、知っておかねばならない大事なことはたくさんある。なのに日々、不要な情報を詰めこまれ、大事なほうをさらっと受け流してしまう。

 ま、メディアは嘘は言ってない。面倒臭いことはしたくないだけ。

週刊朝日  2015年3月20日号

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