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 ドラマ評論家の成馬零一氏は、ドラマ『問題のあるレストラン』の今後の展開に注目したいとその理由をこう語る。

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 フジテレビ系木曜夜10時から放送されている『問題のあるレストラン』が毎回スリリングだ。男社会における女性差別という重たいテーマを描いており、目が離せない。

 大手飲食サービス「ライクダイニングサービス」に勤める田中たま子(真木よう子)は、レストラン「シンフォニック表参道」の立ち上げに参加していたが、親友の藤村五月(菊池亜希子)が食中毒の責任を押し付けられて幹部社員の前で全裸になって謝罪させられたことを知り、幹部社員たちに氷水を浴びせて会社をクビになる。

 たま子は、その後、五月から託されたレシピを元に「ビストロ フー」を開店。「シンフォニック」の側にあるビルの屋上に店を構える。

 たま子と共に働くのは、シングルマザーの三千院鏡子(臼田あさ美)、かつての同僚・烏森奈々美(YOU)、女装が好きなゲイ・几(おしまづき)ハイジ(安田顕)、「喪服ちゃん」と呼ばれる、東大出身でコンサルタント志望の新田結実[(ゆみ)二階堂ふみ]、元ひきこもりの天才シェフ、「パーカーちゃん」こと雨木千佳[(ちか)松岡茉優]や、当初は「シンフォニック」のスパイとして偵察していた「きらきら巻き髪量産型女子」の川奈藍里[(あいり)高畑充希]。作中では夫からのモラハラや同僚のストーカーなど、女性への差別行為が、これでもかと描かれている。

 脚本は、『それでも、生きてゆく』や『最高の離婚』(ともにフジテレビ系)といった作品を手掛けた坂元裕二。ドラマファンの間では、絶大な支持を得ている脚本家だ。

 思い切ったなぁと思ったのは、男と女の世界をバッサリ分断したこと。こういうドラマを作ると、ついつい女たちにも理解を示す中立的な男性を配置しがちだ。人間の多様性を描くという観点でも、その方が評価を得やすいからだ。しかし、それをやったが最後、男性視聴者は中立の男性と同一化して、作中で描かれるセクハラを他人事としてしか捉えられなくなってしまう。「シンフォニック」のシェフ・門司誠人[(まこと)東出昌大]とたま子の恋愛も描かれているが、門司はたま子が感じている女性差別には無関心だ。まるで、心がないかのような男性陣が最終的にどう描かれるのかが、本作の最終的な評価を決めることになるだろう。

 テーマに目が行きがちだが、もちろんドラマとしても面白い。

 役者がみんな魅力的で、テンポのいい会話劇と、突然はさみこまれる長台詞は圧巻である。

 第6話、奈々美は、かつて自分は弁護士だったとたま子に告白し、弁護士の仕事について、こう語る。

「レストランには、人生の華やかで楽しくて幸せなものが集まってる。あっちの仕事には人生の悲しくて辛くて嫌なものが集まってる。レストランの仕事はすごく大事な仕事。でも世の中はお花畑だけじゃない。泥の中でおぼれている人に誰かが手を差し伸べなきゃいけない。目をそらしたり、ぶつぶつ言ってるだけじゃ泥の中の人は孤独になっちゃうから、誰かがいっしょに泥に入るの。あっちの仕事はそういう仕事。復讐って怒るだけじゃできない。ちゃんと楽しく綺麗に生きることも復讐になる。田中は楽しく綺麗に生きることを目指しなさい。私は……怒る方をやる」

 逆に言うと、お花畑があるからこそ、泥の中で人は闘えるのだろう。

 重いテーマを、笑って泣けるドラマとして描ききろうとする本作のスタンスを表している、名台詞である。

週刊朝日  2015年3月13日号