ベストセラー「ペコロスの母」シリーズの著者、本誌連載でおなじみの漫画家・岡野雄一さんと、著書に『俺に似たひと』(医学書院、朝日文庫)など多数もつ文筆家の平川克美さん。ふたりにとって親の介護は、父親との和解の旅でもあったと介護の経験をこう語った。
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平川さん(以下、平):介護の経験をするなかで、最後に父と和解しました。若いころは細かいことにこだわって、考え方に違いがあると、よく父に詰め寄って対立して。
岡野さん(以下、岡):いくつぐらいのころですか?
平:高校生ぐらいのころ。細かい違いに目が行って、大事なことが見えない。今、世間で起きていることも同じだと思います。憎悪をたぎらせる状況といいますか。もう少し時間が経って高いところに立つと、「報復」ではなく、さまざまな和解策が見えてくると思うんです。
岡:僕は思春期に父が母を包丁を持って追い回したのが心のキズになっていて、自分の中でいつ同じ血が暴れだすかと、怖くて背を向けたまま父とは別れてしまいました。介護を通して母が和解させてくれたような気がします。
平:介護は後悔もなければ達成感もない。時間だけが過ぎていくんだけど、すごくいろんなことを後で学ぶ。その瞬間は、もがいて、やりようがなく時間だけが進む。
岡:後で気がつくんですね。
平:介護のゴールは「死」なので、死ぬまで続く。悩むということは、それぞれのケースで違うけど、「悩み」と「充実」が常に表裏なんです。
岡:母の介護が始まったときも、まだ介護保険制度が施行されていないころだったので、「母をどうすればいいんだ」と、いつも悩んでいた。その悩んだ経験が後に蓄積となった気がします。
平:介護の経験のなかで学んだことは、苦しむ父を見て何もできない。母のときもそうだった。何もできないんだけど、寄り添うことはできる。そこにいてくれるだけでいいと思ってもらえる。それがとても大切なことなんです。
※週刊朝日 2015年2月27日号より抜粋