Brass And TrioSony Rollins
Brass And Trio
Sony Rollins

 ソニー・ロリンズがB級であるはずが無い。だからこれは、「ソニー・ロリンズのアルバムとしては」という意味にとっていただきたい。ロリンズほどの大物となると、当然名盤も綺羅星のごとく数え上げられる。50年代から60年代にかけての、たとえば『サキソフォン・コロッサス』(Prestige)やら『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』(Blue Note)などを筆頭に、およそ10枚ほどは誰でも簡単にリスト・アップすることが出来るだろう。

 しかし、それ以上となると、人によりかなりバラつきがでるのはやむを得ない。それでも、このアルバムを挙げる人はそうとうのマニア、ロリンズ・フリークではなかろうか。と言うのも、オリジナル・アルバムを出したレーベル、「メトロ・ジャズ」がすぐにつぶれてしまい、いわゆる「幻盤」となっているからだ。

「幻盤」ではあるけれども、「幻の名盤」とまではなっていないのはわからないでもない。アルバム・タイトルからも想像できるように、編成がアナログ時代のA面とB面で異なっており、A面に収録された大編成のセッションでは、さほどロリンズの聴き所があるというわけでもない。だが、B面に収録されたトリオ編成がなかなか渋い名演なのだ。

 つまり、いいとは言っても半分ではちょっと「名盤」とは言いにくい。しかし、ロリンズというミュージシャンを知り尽くしたファンなら、ベース、ドラムスのみを従えた「テナー・トリオ」という変則的楽器編成にピンと来るものがあるのではなかろうか。ふつうならそこにピアニストがいる、つまりピアノ・トリオをバックにしたサックス・カルテットとなるべきところを、ワザワザ、ピアニストを外したところがポイントだ。

 よく言われるのは、ピアニストを外すことによってピアノが出すコードから自由な演奏がしやすいというもの。ご存知のように前出の『ヴィレッジ・ヴァンガードの夜』はトリオ編成をとっており、期待たがわぬロリンズの自由奔放な演奏が満喫できる。

 だが、変則サックス・トリオの聴き所はそれだけではない。旋律を奏でる楽器が自分ひとりのため、あたかもサックスで聴き手に語りかけるような表現がしやすいというメリットがあるのだ。とは言え、それが出来るのは本当に優れたサックス奏者に限られるのは言うまでも無い。

 このアルバムのトリオ・セッションでは、ロリンズというサックス奏者がいかに優れたミュージシャンであるかが実感できる。それはアドリブの冴えとか奔放なアイデアの展開とはまた違った、フレーズの一音一音がじっくりと語りかけてくる、リアルで深みのある音楽のたしかな肌触りである。《ホワッツ・マイ・ネーム》のじみじみ感を心行くまで味わっていただきたい。

【収録曲一覧】
1. WHO CARES
2. LOVE IS A SIMPLE THING
3. GRAND STREET
4. FAR OUT EAST
5. WHAT'S MY NAME
6. IF YOU WERE THE ONLY GIRL IN THE WORLD
7. MANHATTAN
8. BODY AND SOUL

Sonny Rollins, tenor saxophone
Nat Adderly, cornet
Clark Terry, Reunald Jones, Ernie Royal, trumpets
Billy Byers, Jimmy Cleveland, Frank Rehak, trombones
Dick Katz, piano
Rene Thomas, guitar
Roy Haynes, drums
Henry Grimes, bass
Recorded in New York City, 7/11/58, at Metropolitan Studios.

Sonny Rollins, tenor saxophone
Charles Wright, drums
Henry Grimes, bass
Recorded in New York City, 7/10/58, at Beltone Studios.