経済専門書『21世紀の資本』(みすず書房)の著者であり、主流派経済学のこれまでの常識を打ち破ったといわれるフランスの経済学者ピケティ氏。1月29日に開催された来日シンポジウムで日本の少子化は、格差拡大の原因になりうるとこう分析した
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人口が継続的に減少することは恐ろしいことです。日本では2030年が重要な年になるのではないでしょうか。
人口が大きく増えていて、1世帯で10人の子どもがいるなら、相続する資産は10人で割らなければならない。それが、1世帯あたりの子どもが1人で、しかも両親のどちらも裕福であれば、両方から大きな資産を受け継ぐことができる。
日本では、下位50%の層は、何の相続もできません。一方で、上位10%は大きな相続があるはずです。これは、格差拡大に重要な影響を及ぼす可能性があります。
これに対抗する政策は、長期的には人口を増やしていくこと。出生率を上げるうえで最も重要な政策は、男女平等でしょう。女性が働きやすくなり、父親も子育てに関与する。そうでなければ、子どもの数はどんどん減っていくでしょう。
──シンポジウムの後半では、会場にいる識者との質疑応答もあった。まず元TBSアナウンサーで、エッセイストの小島慶子さんから「日本には“お互いさま”や“おもてなし”という言葉があるが、(社会で)機能しているとは言い難い。富裕層が『他人に自分の資産が移ることの納得感』を得るには、何が必要か」という質問があった。
いかに団結や連帯感を作るかということですね。私は本の中で、「経済的知識の民主化」ということを訴えています。少数のエコノミストだけに任せるのではなく、一般の人々も経済問題に対して、意見が言えるようになることが必要です。経済問題は、人任せにはできない重大な問題です。
資産への累進的課税を認めさせることは、大きな政治的な戦いになるかもしれません。不平等と税の歴史を振り返れば、世界大戦など大きなショックがあった後に、エリートが税の累進性を認めるようになりました。
フランスでは、1914年の夏、ドイツとの戦争資金が必要だったために、初めて所得税が認められたのです。こうした政治的なショックの後に不平等は縮まり、団結心が高まりました。それが望ましいと言っているのではなく、歴史の教訓から学ぶことがあるということです。
また、富裕層が理解すべきなのは、グローバリゼーションには「財務的な正義」を伴わなければならないということです。多くの人がグローバリゼーションを「有利でない」と感じれば、それはリスクになり、反グローバル化やナショナリズムにもつながります。
フランスで極右が台頭していることは、非常に大きな問題です。すべての人がグローバリゼーションから便益を受けられるように、インクルーシブ(包括的)な形にすることを訴えていくべきです。
※週刊朝日 2015年2月13日号より抜粋