子どもたちに田園風景を残せるのか…… (c)朝日新聞社 @@写禁
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 いったい誰のため、何のための改革なのか――。安倍晋三首相(60)が前のめりで進める農協改革に、農協関係者のみならず、自民党議員からも批判が噴出している。そこには隠された狙いがある。約400兆円の農協マネーの奪い合いだ。日米両政府の思惑に、日本の農村は食い物にされるのか。

 農協は、金融サービスを提供する信用事業(JAバンク)と、民間の保険にあたる共済事業(JA共済)を展開している。農協は農産物の販売・購買などの赤字事業に、信用・共済事業の黒字で補てんしている。

 その保有資産は莫大で、JA共済の契約保有高は約300兆円。組合員に事業融資や住宅ローンなどを提供するJAバンクの貯金残高は約90兆円で、日本の個人の預貯金残高に占める割合は10.5%にのぼる(2012年度末)。これは、三菱東京UFJ銀行よりも高い比率だ。

 政府は、このカネに手を伸ばそうとしている。政府の諮問機関である「規制改革会議」は昨年11月、「農業協同組合の見直しに関する意見」という文書を発表。貯金や共済の利用制限について「(一般の人も加入できる)准組合員利用量の規制は、数値基準も明確に」と書いている。同会議の農業ワーキング・グループは昨年5月にも意見を発表していて、そこでは「(農家限定の)正組合員の事業利用の2分の1を越えてはならない」と提言している。

 実は、これが農協の信用・共済事業を弱体化させる核心という。大妻女子大学の田代洋一教授(農業経済学)は、こう解説する。

「たとえば、准組合員がJAバンクで利用できる貯金総額が正組合員の50%以下に制限されると、50%を超える分の貯金額は准組合員に返却しなければなりません。経営が不安定になり、地域農協に与える打撃は計り知れない」

 さらに、米国も農協の信用・共済事業を狙っている。郵便貯金・簡易保険の民営化に続き、再び日本人の資産が標的になっているのだ。

 昨年6月、在日米国商工会議所(ACCJ)が、JAグループの組織改革について意見書をまとめた。その内容は規制改革会議の活動を高く評価するもので、結論には「日本政府および規制改革会議と緊密に連携」していくと書かれている。

 にわかに信じがたい話だが、これは両者が発表している意見を比較すれば一目瞭然だ。

 注目すべきは、米国の規制見直し要求にある「組合員の利用高の一定の割合までは員外利用が認められていること」という項目だ。「員外利用」とは、農協に出資している正・准組合員ではなくても、農協のサービスが利用できる枠組みのこと。信用・共済事業を中心に、各農協ごとに20~25%まで認められている。これが特別待遇にあたるとして、制度撤廃を求められている。

 しかしながら、規制改革会議の意見にあるのは先述した准組合員への利用制限だけ。員外利用の禁止は書かれていない。ここにカラクリがある。

「まず、准組合員に利用制限がかけられると、正・准組合員の貯金総額が減ります。そうなると当然、員外利用の比率が自動的に高まってしまう。それが25%を超えれば、員外利用者に貯金を返却しないといけない。准組合員の利用量規制をすれば、員外利用者にも同時に制限できるのです」(田代教授)

 いま、農協の正組合員は461万人、准組合員は536万人(12年度)。准組合員の利用制限が2分の1になると、農協は単純計算で准組合員約305万人分の信用・共済事業の資産を扱えなくなる。JAグループの関係者は言う。

「准組合員に返却された貯金などは、国内外の金融機関や保険会社にとって顧客獲得の商機になる。信用・共済事業の規制改革は、これまでも繰り返し意見が出されていたし、農協改革の最大の狙いもそこにあるのでしょう」

 今回の農協改革でも、規制改革会議の意見を受けて准組合員の利用制限が論点に入っている。現場無視の提案にベテラン議員は、

「規制改革会議が神様なら、国会議員はいらない」

 と不快感を隠さない。

週刊朝日  2015年2月6日号より抜粋