いま、もっとも旬な女優、尾野真千子。1997年、映画「萌の朱雀」でデビューし、さまざまなドラマや映画で引っ張りだこの彼女だが、デビュー当時の苦労を作家・林真理子との対談で語った。
* * *
林:どんな役も自分のものにしちゃうからすごいですよ。尾野さんって、デビューが早いんですよね。
尾野:そうなんです。デビューって言っていいかわからないんですけど、初めて映画に出たのは15歳でした。
林:河瀬直美監督の「萌の朱雀」(97年)ですよね。地元の中学校のげた箱の掃除をしてるところを、監督にスカウトされたんですって?
尾野:はい。げた箱発信なんです、私(笑)。
林:ジャージーにズック姿という感じで?
尾野:そうです。
林:「映画に出ない?」って言われて、どう思ったんですか。
尾野:なんだろうな、うれしいとも違うし……。映画館も近くになかったし、たくさん映画を見てたわけじゃないからピンとこなくて、夏休みの思い出づくりぐらいにしか思ってなかったですね。
林:やってみて、楽しかったですか。
尾野:ほんとに楽しくて、キラキラしたものがいっぱいあって、スタッフがおもしろくって。お芝居っていうお芝居もしなかったんですが、この世界に入ればこの人たちとまた仕事ができると思って、それで高校を卒業して東京に行ったんです。
林:「このまま女優やりなよ」とか「東京に出てきなよ」って、みんなにすすめられて?
尾野:いえ、東京に行くって決めたのは自分なんです。それで18歳でいまの事務所に正式に入ったんです。
林:出てきてすぐに仕事があったわけではないんですか。
尾野:ないです、ないです。「名前をなくした女神」(2011)のとき、バイトをやめたぐらいですから。
林:それまではバイトをしてたんですか。どんなバイトを?
尾野:いろいろやりましたよ。近所のスナック、事務系……。
林:バイト先で、「女優をやっている」とは言わなかったんですか。
尾野:いえ、言ってました。みんなすごく協力的で、「オーディションがあるので、きょう休ませてください」って急に言っても「いいよ」って言ってくれて。人にはすごく恵まれてました。
※週刊朝日 2015年1月16日号より抜粋