ジャーナリストの田原総一朗氏は、今回の解散・総選挙で自民党を選ばざるをえない理由をこう語る。

【速報!注目候補の当落まとめ】

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 国民の多くは、安倍晋三政権が衆議院を解散したことに、少なからず不満を持っている。新聞各社の世論調査でも、解散を支持しないという意見が6割以上だった。安倍政権に好意的な産経新聞の世論調査でさえ、72%が解散を支持していない。

 ところが、朝日新聞が12月4日付朝刊で報じた衆院選の序盤情勢調査は、意外な結果だった。自民党は公示前の293議席を上回り、300議席を超える勢いである一方、民主党、維新の党ら野党は伸び悩んでいるというのだ。同日、読売新聞も「自公 300超す勢い」、毎日新聞も「自民300議席超す勢い」と、与党の圧倒的な優勢を報じた。

 この差は何を意味するのか。国民の多くは解散に不満を持ちながらも、自民党以外に投票できる政党がなく、思い悩んでいるのではないか。

 これまで経済の専門家たちの多くは、日本の経済成長の時代はすでに終わったという意見だった。資本主義は終焉を迎えるという主張まであった。アベノミクスは、こうした悲観論に対する挑戦だった。少なからぬ国民が、「経済を成長させてみせる」という安倍政権に疑問は持ちながらも、チャレンジに期待したいと思ったのである。

 一方で、民主党を中心とする野党が主張するのは成長論ではなく、「株価が上がっても庶民には恩恵が回ってこない」「非正規雇用を減らして正社員を増やすべきだ」というような分配論ばかりだ。だが、成長がなくては、富の分配もない。野党の主張には、成長のエネルギーが感じられないという問題点がある。

 

 最近、テレビの党首討論などを見ていると、安倍首相の人相が悪くなったという印象を受ける。これは、安倍首相が成長したという証拠だと思う。これまでは、どこか「おぼっちゃん」という雰囲気だったのだが、首相を続けたことで政治家として鍛えられたのではないか。討論でも、かつてより雄弁に語るようになったと感じる。「しゃべりすぎだ」と嫌う人も少なくないようだが、エネルギッシュで迫力があるのは確かだ。中には論理の矛盾もあるのだが、経済を成長させてみせるというチャレンジ精神が感じられるのだ。

 一方の野党はといえば、まさかこんな時期に解散があるとは思いもせず、選挙態勢が整っていなかったのだろう。みんなの党は選挙を待たずして解党に追い込まれ、維新の党も橋下徹大阪市長や松井一郎大阪府知事が出馬するかどうかで最後までドタバタした。生活の党も、何人かが土壇場で民主党に移るなど、各党とも慌てふためいた姿を国民の目にさらしてしまった。自民党が狙ったとおりの結果になっているのだ。

 野党がそろって主張するように、確かに今回の解散に大義はない。10月31日の日銀による追加金融緩和を受けて株価が上がっているこの時期しか、選挙に勝てるタイミングはないという計算があったとしか思えない。国民にとって、これほどドキドキしない選挙は近来なかったのではないだろうか。だが結局、野党はアベノミクスを批判するだけで、対案を出せない。世論調査の結果が示すのは、国民が消極的に自民党を選ばざるをえない、という現状なのではないだろうか。このままでは無党派層の票も、かなり自民党に流れるだろう。だが、与野党の差が開けば、政治は国民から遠くなる。国会審議に迫力がなくなってしまうのではないだろうか。

週刊朝日  2014年12月19日号