総務省が今年7月末に発表した「住宅・土地統計調査」によると、2013年の全国の空き家数は820万戸で、過去最高となった。総住宅数に占める割合も13.5%で、5年前の前回調査時より0.4ポイント上昇。7軒に1軒が空き家の計算だ。
もっとも高いのは山梨県(22.0%)、次いで長野県(19.8%)、和歌山県(18.1%)。人口減少や高齢化が進む地方が上位を占めている。
その数字の裏に見えるのは、高齢の親が亡くなったり施設に入ったりして、誰も住まなくなった実家の扱いに苦慮する中高年の子どもたちの姿だ。
戸建ての実家ばかりではない。相続税対策目的で建てられた賃貸住宅も空き家となり、子ども世代に金銭的負担を強いている。
「どうすることもできないので『塩漬け荘』って呼んでいます」
親から受け継いだ愛知県内のアパートをそう表現して苦笑するのは都内在住の雑誌編集者Bさん(49)だ。7年前に最後の住人が退去して以来、空き家になっている。目隠し代わりの植栽の枝は道にせり出し、看板は大きく傾く。錆びて腐食した外階段。駐車場の脇では雑草が伸び放題で、ヤブ蚊がやたらに多い。
名古屋中心部から電車で約20分、名鉄の駅から徒歩15分ほど、県道から一本奥に入った路地にあるアパートは、両親が約40年前、祖父の遺産の土地に借金して建てた物件だ。
00年、Bさんの両親は交通事故に遭い、相次いで亡くなった。一人娘のBさんは失意のなかで実家の整理に着手。幸い名古屋中心部の熱田神宮近くにあった実家は比較的スムーズに売却が成立したものの、アパートはいつになっても買い手が現れなかった。
現在の物件を見た地元の不動産業者は、「アパートの空き家は難しい。人に貸すもんだで。誰も入っていないようやったらお金も生まんし。買い手がいても更地にして、という条件で言ってくるのが多いだあね」と本音を漏らす。
何度かの転職を経て、今は契約社員のBさんには、年数万円の固定資産税だけでも負担感は大きい。坪単価二十数万円で、当初約1500万円だった売値を100万円単位で下げてでも、手放すしかないと思っている。
「このアパートがあったおかげで私は大学まで出してもらえた。がんばって建ててくれた両親には感謝しているのに、最後がこんなことになるのは……。本当に切ないです」(Bさん)
Bさんのようなケースを「典型的な『空き家事例』です」と評するのは、不動産コンサルタントの長嶋修さん(47)だ。今年7月、『「空き家」が蝕む日本』(ポプラ新書)を著した。「親は子どものために家という資産を残したつもりが、今は負の遺産になってしまうんです」と話す。
高度成長期からバブル経済期にかけては、建物の資産価値がゼロでも、土地は2~3倍、多ければ5倍にもなった。
「今の60~70代は土地だけで平均2千万円ぐらいの資産形成ができたはずですが、もはや、そうではなくなったんです」
バブル後の1990年代から景気対策として拡大した住宅ローン減税も新築を優遇したため、毎年100万~150万戸ペースで家が建っていった。だが人口減社会に突入し、世帯数が減るなかで当然、家は余ることになる。
「人が流入しづらい土地はどんどん価値が下がる。さらに団塊の世代からの遺産相続が増える20年ごろから、空き家率は急激に上昇するでしょう。『売れない』『貸せない』『住まない』家なのに、固定資産税だけはかかる。『おまえにやるよ』『いや、長男なんだから、お兄ちゃんがもらいなよ』と、今にきょうだいで親の家の押しつけ合いになりますよ」(長嶋さん)
※週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋