作家の室井佑月氏は、福島第一原発に関するニュースが減少していることに対して危機感が失われつつあるとこういう。

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 NHKを観ていたら、こんなニュースが流れてきた。

「東京電力福島第一原発の事故を受けて、福島県が行っている子どもの甲状腺検査で、これまでに検査を受けたおよそ30万人のうち、103人が、がんやがんの疑いと診断されました。福島県などは、原発事故による被ばくの影響とは考えにくいとしていますが、今後も検査を続けることにしています」

 じゃあ、なにが理由?

 テレビでは検査を担当する福島県立医科大学の鈴木眞一医師が、「症状のない人も含めて精度の高い検査を行っているため」といっていた。それはそういう部分もあるだろう。でもって、この先生もやっぱり、「これまでのところ、原発事故による被ばくの影響とは考えにくい」だって。福島第一原発事故による健康被害は絶対にないって、はじめから決めてかかっているようにあたしには思える。そうじゃないのであれば、あれだけの大事故があった後だもん、県も検査を担当する医師も、

「当然、被曝の影響も調べていく」

 って発言にならないか? がんやがんの疑いのある子を持つ親は、行政のそういう真摯な態度にこそ、安心を得るんだと思うよ。

 ところで最近、福島第一原発関連のニュースが非常に少ないのが気にかかる。大変な事態になっているのに、扱いが小さかったり。

 東電は汚染水漏れをなくすため、凍土壁を作るつもりだった。それには、まず、「氷の壁」を坑道と建屋の接続部に作り、流れを止めて坑道内の汚染水をくみ上げなくてはいけない。

 けど、上手くいっていない。7月末からは400トンの氷やドライアイスを投入したみたいだが。

 結果、壁は凍らず、流水でも固まる特殊なセメントで固めるみたい。しかし、それは駄目だった場合が痛い。やり直しが利かないようで。今夏は汚染水問題解決のため大量の氷を投入し、結果、汚染水を増やしてしまった。

 あたしはヒヤヒヤしながら、このニュースをネットで拾って読んでいた。しかし、世間の人の関心は、有名人の「アイス・バケツ・チャレンジ」だったり。

 なんでも、氷水の入ったバケツを頭からかぶった人たちが、他の人にも同じことをやってみろと挑戦をしかける。レディー・ガガさんもチャレンジしたらしく、ALS(筋萎縮性側索硬化症)協会への寄付につながるという。

 ALSの人の支援も大切なことだと思うが、今夏の福島第一原発のアイス・バケツ・チャレンジを知っていたら、この国の人が楽しんでそんなことをしてていいのかな、と正直思う。

 芸能人は政治的な問題について発言するな、という人もいるけど(原発は政治的な発言になるらしい)、「被災地に寄り添って」という言葉、みんな好きだったじゃない? あれはただの言葉だった? 被災地の問題は国民みんなの問題だという意識を持とう、という意味であったはず。

週刊朝日  2014年9月12日号

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室井佑月

室井佑月

室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中

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