これまで無敵だった安倍自民党を敗北させたキーパーソンは、「卒原発」を掲げた嘉田由紀子前滋賀県知事だった。後継指名した三日月大造氏の勝利の立役者である嘉田氏が今後の戦略を本誌に語った。

*  *  *

 川内(せんだい)原発再稼働が確実となり、今後、滋賀県に隣接する福井県の大飯原発などの再稼働の動きが本格化していきます。知事を退いても、「卒原発」を私は私人として訴えていきます。

「脱原発」を実現するための社団法人「自然エネルギー推進会議」を立ち上げた細川護熙さんとは5月に2度、お会いし、今後は一緒に活動していこうとお話ししました。偶然ですが、細川氏が社団法人を立ち上げた5月7日は、私が知事選不出馬を発表した日でもあり、その足で東京で行われた発足式にも参加しました。

 選挙戦中の7月7日、小泉純一郎元首相が東京都内の講演で「原発推進の論理は完全に破たんしている」と語りましたが、私たちへの間接的な応援だったかもしれません。私は琵琶湖の研究を続けてきた研究者でもあります。知事時代より身軽に動けるようになったので、海外の原子力政策についても、現地に赴いて調査研究していくつもりです。

 川内原発再稼働にお墨付きを与えた今回の新規制基準の最大の問題は、プラントの基準適合ばかりに気を使い、避難計画など、事故被害を最小化するという発想がないことです。原発事故も公害問題と同じで、もっと地元住民の声を聞く必要があります。

 
 滋賀県は三日月新知事の下、今後も関西電力と安全協定の改定交渉を行っていくと思います。それが公約ですから。原発再稼働について、今は電力会社は周辺自治体に事後報告すればいいだけですが、これを、事前の同意が必要となるように変えていく。事故で影響を受ける「被害地元」として、滋賀県も原発立地自治体並みの権限を手に入れる交渉を進めていくはずです。

 関電との交渉が決裂したら、大間原発(青森県大間町)の建設差し止めを求めて国などを訴えた函館市(工藤寿樹市長)のように、訴訟という選択肢もありますが、地元からの社会的支持が必要です。

 滋賀県知事選での私たちの勝因について、多くのメディアは安倍政権の集団的自衛権行使容認の閣議決定の影響を挙げているようですが、実感では、もっと前に勝負はついていたと思っていました。

 3月の情勢調査では、私が40%、自公が推した元経済産業官僚が20数%、三日月氏が15%ほど。支援者からは熱烈に出馬を要請されましたが、家族の強い反対もあり、誰かにバトンを渡したいと考えていました。

 三日月氏から後継指名してほしいと要請されましたが、彼の最大のネックは、「卒原発」を支持する嘉田支援県民が、三日月氏を信用するか、ということ。特に三日月氏は、民主党を離党して立候補する前の4月、国会で原発輸出協定に賛成票を投じました。立場上、避けられなかったと思いますが、私の主な政策である「卒原発」などを継承してくれるのかと何時間も話し合った上で、5月7日に三日月氏と私が共同代表を務める地域政策集団「チームしが」を立ち上げました。彼を信用した最大の理由は、3人の子育てをしながら、選挙戦を支える奥様が素晴らしい方だったことでしたね(笑)。私の支援者の集会に夫妻で来てもらい、卒原発を明言してもらいました。その後も地道な草の根の活動を続け、信頼が広がっていったのです。

 
 一方、自民党は石破茂幹事長が県庁に乗り込んできて、候補者と共に第一声をあげると、菅義偉官房長官、野田聖子総務会長率いる女性キャラバン隊、小泉進次郎氏、閣僚など約200人もの国会議員を滋賀に投入。国政選挙以上の力の入れようでした。

 終盤では、日本維新の会の橋下徹共同代表も、自公推薦候補者の応援で滋賀に入りました。橋下氏とは、かつて大飯原発の再稼働反対で共闘した仲だったので、その直前に電話で話したら、「菅さんに頼まれた。大阪都構想の仁義があるから」と説明しました。「琵琶湖から大阪に水を送っている私と一緒にやってきた仁義はないのですか。後は任せますから」とだけ伝えると、橋下さんは演説の前半では「嘉田知事もよくやっていた」と言ってくれていたそうです(笑)。

 安倍政権は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけましたが、電源の代わりは自然エネルギーなどほかにもあるけど、私たちの飲み水の供給源である琵琶湖の代わりはない。少なくとも大飯原発などの再稼働は不合理でしょう。琵琶湖の水が万一、汚染されたら関西圏に住む1450万人の命に関わる問題になり、経済も地域生活も破壊されかねません。国家の選択として不合理だと思います。

 私は準備不足で失敗した日本未来の党の失敗を繰り返すつもりはありません。「チームしが」で足元を固め、実行性ある避難体制なしに再稼働はあり得ないと、卒原発などの政策を草の根から積み上げていけるよう、一人の私人として声をあげていきます。(談)

週刊朝日  2014年8月1日号