死別に直面した後の妻たちは、悲嘆と孤独のなかで戸惑う。
北関東地方で喫茶店を営むAさん(77)は昨年、健康自慢の夫を失った。体調不良を訴えて病院へ行くと肺がんで、すでに末期の状態。
「心の準備ができていなかった。いまだに『ただいま』とドアを開けて帰ってくる気がして……寂しい」
自営業のBさん(49)が同い年の夫を失ったのは今年3月。足の骨折で手術後、血栓が肺に飛んで意識不明になった。
「見舞った息子と私を元気に見送ったその夜、病院から急変を告げられ、翌日には……。何が起きたのか理解できませんでした」
死因は必ずしも病気とは限らない。「亡くなり方によって遺族感情には違いが表れる」と語るのは、神戸赤十字病院の村上典子・心療内科部長だ。病気のほか、自死や突然死、阪神大震災、福知山線脱線事故などで大切な人を失った遺族と向き合い、心のケアを続ける。
「病気の場合、『もっと食事に気をつけていれば』『なぜ早く発見できなかったのか』などと後悔する。犯罪や医療ミスなどで加害者がいると、怒りや憎しみが生まれる。裁判になって損傷した遺体の写真を見たり加害者の言葉を聞いたりすれば、二次的に心が傷つけられることもあります」
村上医師によると悲しみが深く、長引く傾向が強いのは以下の5ケースだ。
(2)死因や医療に納得がいかない
(3)悲しみを分かち合う家族がいない
(4)長期間の介護などで心身が疲れ果てている
(5)亡くなった人に悔いや強い愛着がある
これらの多くが当てはまるのが「自死」だ。中国地方のCさん(48)は8年前に夫を失った。妻として心身の負担は気になっていたが、「まさか亡くなるとは思わなかった」。結婚生活12年、女児2人に恵まれ、マイホームを購入した2年後、その家で夫は縊死した。発見者のCさんは数カ月間、放心状態に陥り、不眠・頭痛・動悸・悪夢など、あらゆる不調に見舞われた。
「当時10歳と4歳だったわが子のためにも頑張らねばとわかっているのに、だめでした。私たち3人が餓死しなかったのは近所に住む親が世話してくれたから」
最初の転機は死別から4カ月後に訪れた。夫を古くから知る工務店の店主が、亡くなった現場をリフォームしてくれたのだ。目にするたびにつらい記憶がよみがえる苦しい場所だった。
「店主さんが『この場に立つことで生まれる苦しみなら、取り去ってあげられるかもしれない。お金なんていつでもいいよ』と、気心知れた大工さんだけを入れて直してくれた。苦痛はぐっと減りました」
4年目の春、本格的にグループカウンセリングを学ぶ機会を得て以降、心の安定を取り戻していった。今は精神科の看護師として、夫と同様、心の病を抱える人のつらさとも向き合う。
「やっと『彼は短いけれど内容の濃い人生を全力で走り切った』と思えるようになりました」
※週刊朝日 2014年7月11日号より抜粋