昨日まで仲睦まじかったきょうだいが、親の入院などを機に「誰が介護するか」で、むき出しの本音をぶつけ合う――。「きょうだい介護」は、時に、お金の問題のほか、なすりつけ合いや被害者意識などが火種になって、一触即発の“戦争”につながる。
介護保険相談員をしている埼玉県在住のミヨ子さん(71・仮名)は16年前に、認知症の母を在宅で7年ほど介護した末、看取った。4姉妹の3番目。父の他界後、母に認知症の症状が表れ始めたころは、いちばん近くにいた次姉が世話していた。だが、母は萎縮していた。その姉に少しでも大声を出されると、ぶたれないように構える姿勢をとるのだ。見かねたミヨ子さんが、姉が旅行に出かける際に「試しに預かるから」と申し出て、親や子どもを説得し、自宅に引き取った。
ちょうど年末で、正月準備に忙しい時期だった。
「餅がつき上がると、母が『まだやわらかいね。もう一晩寝かせると、包丁できれいに切れるようになるね』と。認知症になっても何もできなくなるわけじゃない。母の残っている能力を引き出すよう、姉にも受容の心で向き合ってほしいと思いました」(ミヨ子さん)
旅行から戻った姉が迎えに来ると、今度は母が「帰らない」と言いだし、そのままミヨ子さん一家と暮らすことに。母の年金や財産はすべて次姉が管理し、ミヨ子さんはわずかな金を渡されたが、母をデイサービスに通わせたり母の衣類を買ったりしているうちに半年後、夫の給料を支出が上回り、家計が赤字に陥った。
母と同居を始めて以降、次姉とはぎくしゃくし、他の姉妹も含め、「お金がほしい」と訴えても難しいと思った。そこで、他人の介護体験談が書かれた本の内容の一部などを便箋30枚ほどにまとめ、姉妹全員に送った。すると次姉が毎月5万円を送金するようになった。ただ、これは母の年金から捻出されていた。
母が残り少ない時間を自分らしく過ごせるよう、ミヨ子さんは部屋に仏壇を置いた。次姉と暮らしていたころは「線香の火でボヤ騒ぎになるのは困る」と撤去されていた。
「人は悲しくなると手を合わせたくなるけど、母もそうでした。そんな時間まで奪うのはかわいそうで」(同)
焼き鳥に使う串を緑色に塗り、先を赤く染め「最近は便利なお線香があるのよ」と母に渡した。すると母は「あら、いいわね」と目を細め、亡き父の位牌を拝んだ。たまに訪れる次姉にも「仏壇に手を合わせてから帰りなさい」と促した。
最近、遺産で両親の永代供養を済ませたが、姉妹の確執は今も続く。
「介護もせず、経済的な負担もしなかった姉や妹が少ない遺産の分け前をいまだ求めてくることに、憤りを感じています」(同)
介護を巡り、きょうだいがもめる原因は何なのか。1996年設立の、遠距離介護をする人を支援するNPO法人「パオッコ」理事長で、『70歳すぎた親をささえる72の方法』(かんき出版)などの著書がある太田差恵子さんが分析する。
「もめるポイントは大きく分けて『誰が介護するのか』と『お金』の2点。昔なら『家を相続する子どもが親の介護もする』と暗黙のうちに決まっていましたが、長男の妻が面倒を見る風潮は薄れるなど、確実に変わってきている。だから、いざ介護に直面したときに『誰がやるのか』でトラブることが多いのです」
※週刊朝日 2014年5月2日号より抜粋