詩人の谷川俊太郎さんは、現在82歳。詩の創作はもちろん、絵本の制作や、詩と音楽のコンサートを開いたりと、精力的な活動をしている。作家の落合恵子さんとの対談で、自身の死生観について話した。
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谷川:僕自身も、若いころから死ぬことはあまり怖くなかった。ただ、母親が死ぬことが怖かったですね。すごく依存してたから。今でも、自分が愛するものの死のほうが怖い。自分が死ぬのは、むしろ楽しみになったんですけど。
落合:もし望むなら、どんな死を望まれますか?
谷川:父親の死に方が僕の理想です。
落合:お父様は哲学者の谷川徹三さん。
谷川:前の日まで元気で、パーティーに出席していたんです。すごく社交的で、そういうところが大好きな人で。帰ってきて、「おなかこわした」と下痢をしていたんだけど、お風呂に入って、「じゃあ、また明日」って、2階の寝室で寝て、そのまま死んでしまったんです。全然苦しみもせず。おなかの中も、体もきれいにしてね。
落合:それは理想ですね。みんなそういうふうに死にたいって望んでいるんじゃないかしら。
谷川:家庭的には困った父でね(笑)。僕は反面教師で生きてきました。でも死に方だけは感心しましたね、これはいいなと。
落合:何も分からないまま、す~っと。私も「昨日あんなに元気だったのに」と言われる死に方がいいな。泣いたあとに、「でも、良かったね」と言ってくれるような死に方。谷川さん、死ぬなら朝がいいですか、夜がいいですか?
谷川:そこまでは選べないですよ、ぜいたくすぎる(笑)。でも、寝てるときに死ねるといいかな。
落合:死ぬときに誰かそばにいてほしいですか?
谷川:あんまり大げさにされたくないですねえ。だって気恥ずかしいじゃないですか。誰かが泣きわめいたりすると気を使っちゃうから。「死ぬのやめるから、おとなしくしてて!」 ってなっちゃいそう(笑)。
落合:ちょっとサービスしちゃうんだ!
谷川:まあ、もし意識があればですけどね(笑)。
※週刊朝日 2014年4月25日号より抜粋