安倍晋三首相が最重要課題の一つと位置づけた「教育改革」。第2次安倍内閣が発足してから1年3カ月で様々なメニューが並ぶ。
改革メニューの「道徳の教科化」は、小中学校で週1回副読本を使って学習している道徳を、国語や理科と同じ教科に格上げするもの。現在、中教審で議論が進められ、15年度にも実現される。
この動きに、横浜の市立小学校の50代の女性教諭は不安を募らせる。
「小学校は子どもたちの心を育てたい場所。毎日が道徳教育という思いがあるのに、『教科書どおりに教えろ』ということなら、画一的な人間ができてしまう。子どもたちの心は評価になじまない」
教員向けの学級経営ノウハウ本を執筆している札幌の市立中学の堀裕嗣教諭(48)も首をかしげる。
「00年度から始まった『総合学習』はいまや、ただ課外学習をして職場訪問をしておけばいい、というくらいに形骸化している。一部の賢い子にしか身につかない教育になってしまった。道徳も同じように、関心を持たないほかの子にとっては、ただの遊びの時間になる恐れがある」
英語教育の早期化は今より2年早め、小学3年生から開始する方向で、文科省で具体的な検討が進められている。大学入試改革はセンター試験を廃止し、合否基準を人物本位に改める「達成度テスト」に変更するという大改革だ。早ければ5年後にもスタートする。現在の小学校高学年や中学1、2年生が、大学入試環境が激変する世代にあたる。
このように、歴史的な転換となる改革を短期間で矢継ぎ早に打ち出す安倍政権。国会は自民党が圧倒的に強い“1強多弱”の状態で、衆院議員の任期も2年半以上あるというのに、なぜそんなに急ぐのか。
かつてゆとり教育の旗降り役だった文科省元官房審議官の寺脇研氏はこう分析する。
「総理はもともと、日本人の誇りと自信を取り戻すには教育を変えなければならない、という考え。第1次安倍政権は絶好の機会だったが、自身の健康問題もあって中途半端に終わった。だから今、躍起になっているんだと思います。支えてくれている保守派の仲間たちの期待に早く応えたいという思いもあるでしょう」
首相の側近議員の一人も同様の見方をするものの、教育改革の先に違う世界があるという。
「首相は問題を見つけると根本から直したがる性格です。改革することに意味を見いだしている。米国の占領時代に土台が固まった憲法と教育はまさに問題の中心。とにかく教育改革を進めて国民の愛国心を養い、さまざまな環境を整えて憲法改正へとつなげたい思いがある」。いずれの改革も濃淡はあれど、「愛国心」に裏打ちされているということなのか。
※週刊朝日 2014年4月25日号より抜粋