
昨年5月、米女優のアンジェリーナ・ジョリーさん(38)が遺伝性乳がんの発症予防のために乳房切除と再建手術を受けたと告白した。手術を担当したクリスティ・ファンク医師(44)が、理化学研究所が主催するシンポジウムのため、来日。講演後に本誌のインタビューに応じた。
今回のアンジーの告白は、アメリカではどう受け止められているのか。ファンク医師は、「患者の家族や親戚など、まわりの人が、(予防的切除について)理解を示すようになった」と歓迎する。
「患者さんの多くは、“アンジーに感謝している”と話していました。なかには涙ぐむ人もいましたね」
実は、遺伝性乳がん(正式には遺伝性乳がん・卵巣がん症候群:HBOC)に対して先進的な医療を実践しているアメリカだが、一部では予防的切除について、家族や親族から理解を得られず、批判されることもあった。それが患者を苦しめていたという。
「それが今回の告白で、周囲の予防的切除への理解が深まり、自分が選択したことについて支援を得られるようになったのです」
今回のインタビューでは日本のHBOCに対する取り組みについても聞いた。
日本では予防的切除はもとより、HBOCの存在すら一般的ではなく、アンジーの告白でにわかに注目された。その結果、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を実施する医療機関が増えた。とはいえ、それも十分ではない。例えば、HBOCの診断に必要な遺伝子検査は、健康保険が使えず、自費で20万~30万円かかる。がんになっていない反対側の乳房や卵巣の予防的切除は一部の医療機関で始まったが、がん発症前の乳房切除はまだ行われていない。
これを知ったファンク医師は、「ショック」と驚く。