山梨市長が社会学者・上野千鶴子さんの介護をテーマにした講演会中止を求めた問題について作家の北原みのり氏は、女性が抱える問題にきちんと目を向けてほしいという。
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山梨市で行う予定だった上野千鶴子さんの講演が、中止を通告された「事件」について。
報道によれば、上野さんが朝日新聞のお悩み相談で、性欲をもてあます中学生男子に対し、「熟女にお願いすればいい」と発言したことや、80年代の著書『スカートの下の劇場』などのタイトル(!)を取り上げ、「公費で招くのに相応しくない」と山梨市長・望月清賢氏が判断したのだとか。
当然、上野さんは猛反撃。市長の判断が理不尽なものであることに加え、市民に対しても、住民監査請求を出して市長を訴えられる、と提示した。マスコミが大きく騒いだこともあったのだろう。結果的に市長は条件(介護以外の話はしない、等)をつけて、講演会を了承することになった。
市長がツイッターで、「必要に応じ、警察の警備も可能になったとの報告も受け、担当課職員の心労への配慮などから、明日の講演会の実施を了承しました」と記しているのを読んで、思わず噴き出してしまった。
上野さんが介護以外の話をした途端、機動隊が乗り込んだり、アンチ上野派が武器を持ち出したり、会場で暴れ狂う人でも……想定していたんだろうか。
上野さんの講演のタイトルは「ひとりでも最期まで在宅で」。
高齢者の女性にとって、「自分を誰が介護する」のかは、非常に深刻な問題だ。家族の介護はしても、自分が介護されることを、女性は「申し訳ない」と考える傾向にある。介護という、逃れられない現実に直面しながら生きている女たちにとって、上野さんの講演がどれだけ切実なものだったか、きっと市長には分からないのだろう。
なぜなら、そんな女のリアリティよりも、ご自身の妄想の中の性の方が重要なのだろうから。
女が性を語るだけで、その意味や中身を捉えることなく、ただただ過激! 非常識! と反応するような、中学生男子のような幼い反応は、正直に言えば、この国に生きる女としては珍しいものではない。でも……市長でしょ? そんな過激なペニスを後生大事にするよりは、女のリアリティを直視してほしい。
※週刊朝日 2014年4月4日号