「一人ぼっちの世界」で始まったステージは、ラストの「サティスファクション」まで怒涛の全20曲。すべての曲でイントロから大歓声が沸き起こり、東京ドーム最後列の席でも立ち上がって踊るファンが多く見られた。客席を見渡すと、客層は20代前半から、70代までと幅広い。日本ロック界の重鎮、甲斐バンドの甲斐よしひろさんが、オープニングナイトの熱狂を語る――。

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「ストーンズの曲の中でダントツに好きな『一人ぼっちの世界』から始まり、いきなりガツンとやられた。『エモーショナル・レスキュー』をやったのも驚きだったし、『ミス・ユー』に続いての『黒くぬれ!』も前の曲の流れからベースのダリル・ジョーンズが巧妙にアフタービートを刻みモダンに進化させていて、さすがだと興奮しました。彼らは昨年、44年ぶりにロンドンのハイドパークで大々的なコンサートを開いたんですが、今回もそのときと同様に50年のキャリアを濃厚に凝縮したバージョン。バランスいいショーとなっていて、全編2時間ちょっとで丁度いい長さ。ああ、よくできてるなと感心したね」

 甲斐さんは1981年にロサンゼルスで観たのを最初に、これまで何度となくストーンズのショーを観てきたが、今回はそうした中でも格別で、「長い歴史においてのエッセンスの抽出の仕方が極上のワインみたいな出来。結成50周年を経て、彼らの良質な20曲を選び抜いてやっていますよね」という。

 甲斐さんの感動するその様には、さぞや期待に胸躍らせてコンサートに臨んだと思いきや、

「いや、ストーンズは期待しちゃいけないバンドなんですよ。知れば知るほど、好きなら好きなほど無心で行く。修行僧のような気持ちです(笑)。そうすると、ものすごい喜びが随所で沸き起こるんです」

 と、ストーンズ・ファンなのにレット・イット・ビー(あるがままに)な心境で臨んだらしい。何せ長いキャリア。ライブのレパートリーも数多くあり、熱烈なファンは好きな曲をやってくれるのを、無の気持ちで待つしかない。ファンとはなんと忠実なのだろう。

「大好きな曲で始まり、全体にストーンズらしい南部っぽいルーズなロックンロールが聴けました。元オールマン・ブラザーズ・バンドのキーボード、チャック・リーヴェルがいい仕事してましたね。後半はヒット曲のオンパレード。水戸黄門の印籠のように、どうだ!ってな感じだね。キャリアの長いバンドのコンサートには、そういう予定調和な見せ場が大事です」

 見所は盛りだくさん。特に70歳になったミック・ジャガーが広いステージの端から端まで走り回って歌う姿には、驚愕する。

「めちゃめちゃ体幹を鍛えてますね。インテルの長友佑都かというぐらいにすごい。彼は目指すハードルが高ければ高いほど本領を発揮する。自分の体から湧き上がる衝動を受け止めるには、強い肉体がないとダメだとも分かっているんでしょう。それに白人のバンドでありながら、ミックのパフォーマンスはいつもそうで、ジェイムス・ブラウン(JB)の強い影響を感じさせる。今回も赤いマントを被ったり、女性コーラスとの絡み方など、JBをほうふつさせるアクションが随所に出てきて、相変わらずだなあと(笑)」

週刊朝日  2014年3月14日号