今年になってから安倍晋三首相の周辺で日米関係に関わる失言が相次いでいる。ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍首相が主張する「戦後レジームからの脱却」について再び考えた。
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「米国は『失望した』と表明したが、むしろ我々が失望したという感じだ。米国は同盟国の日本をなぜ大事にしないのか。米国はちゃんと中国にものが言えないようになりつつある」
2月16日に、衛藤晟一首相補佐官が「YouTube」に、こうした主張をした動画を投稿した。
菅義偉官房長官の指示で、衛藤氏は発言を撤回し、動画を削除したが、もちろん、衛藤氏は失言だなどとは思っていないはずだ。衛藤氏は、安倍晋三首相が12月26日に靖国神社に参拝したことは当然だととらえており、だから、米国が「失望した」と表明したことを厳しく批判したのである。
1月17日には、萩生田光一自民党総裁特別補佐も「共和党政権の時代にこんな揚げ足をとったことはない。民主党政権だから、オバマ大統領だから言っている」と、名指しで批判したことが話題になった。
また、NHK経営委員で、『日本よ、世界の真ん中で咲き誇れ』という安倍首相との対談本を出している百田尚樹氏は、東京都知事選での田母神俊雄氏の応援演説で、「東京裁判は米国による東京大空襲や原爆投下による大虐殺をごまかすための裁判だった」と述べ、米国務省の報道官が「不合理な示唆だ。日本の責任ある立場の人々は地域の緊張を高めるようなコメントを避けることを望む」と反論している。
安倍首相の今年の重要な目標の一つは、集団的自衛権の行使を容認する憲法解釈の変更を実現することであり、つまりは日米関係を深めることであるはずだ。
ところが、安倍首相の、いわば側近たちが、日米関係をきしませる発言を競うように口にしている。
ワシントン・ポストやウォールストリート・ジャーナルなどのアメリカの主要メディアが、安倍首相を「保守的な国家主義者」などと表現して、警戒心を強めているさなかに、私などから見ると、安倍首相に近い人々が、足を引っ張っているとしか思えない言動を示しているのはどういうことなのか。
あるいは、衛藤氏、萩生田氏や百田氏などの発言こそが、本当の意味での安倍応援であり、私のほうが間違っているのだろうか。
そこで、改めて安倍首相が取り組んでいる「戦後レジームからの脱却」を考え直した。
安倍首相が憲法改正を考えていることは確かである。現憲法は占領下で、マッカーサー元帥主導で作られ、しかも非武装を前提としていて、自衛隊の存在もあいまいである。
だから、自衛隊を明記するために9条の2項などの改正は必要だと思うが、A級戦犯が合祀(ごうし)されている靖国神社の参拝についてはどうとらえればいいのか。
安倍首相に近い人々は、安倍首相の靖国参拝を強く望んでいる。
ということは、東条英機元首相などをA級戦犯とした東京裁判そのものを認めないということになるのか。
もちろん、東京裁判が大いに問題ありということは、多くの日本人がわかっている。だが、サンフランシスコ講和条約で、日本は、東京裁判の判決を認めることを前提で独立した。もっと言えば、日本が東京裁判の判決を認めることで、独立できたのであった。
衛藤氏や百田氏は、そこまでさかのぼり、サンフランシスコ講和条約によるレジーム自体からの脱却を図るということなのだろうか。
※週刊朝日 2014年3月7日号