ジャーナリストの前川惠司氏が、北朝鮮の人権問題についてリポートする。

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 北朝鮮の人権侵害問題を調査してきた国連の北朝鮮人権調査委員会が2月17日、「北朝鮮の最高指導者が人道に対する罪に関与してきた」と断定する最終報告書を公表した。報告書は、北朝鮮の外国人拉致は20万人に及ぶとも指摘した。これは日本人拉致被害者だけでなく、1959年から続いた帰国事業で北朝鮮に渡った在日朝鮮人とその家族たちや、朝鮮戦争時に韓国から連れ去った人々などを含む数字だ。つまり、北朝鮮は“3世代世襲の拉致王朝”だと糾弾するものだ。

 日本政府関係者は、この報告書を、「北の体制を変えろと言っているに等しい。ここまではっきり言うとは」と驚き、「西欧社会が、北朝鮮の人権に目を光らせた意義は大きい」と評価する。

 報告書は北朝鮮では4カ所の強制収容所に最大で12万人の政治犯がいるとしているが、「北朝鮮強制収容所をなくすアクションの会」(東京)の宋允復(ソンユンボク)事務局長
によると、北朝鮮にはほかに、日本の刑務所にあたる2千~3千人収容規模の教化所やそれ以下の規模の労働鍛練隊、教養所、集結所といった収容所が多数あって、「さらに膨大な人数が劣悪な状況下にある」という。こうした施設の内情を知るある脱北者は、

「1200人程度収容の施設で、8カ月で860人ぐらいが死んだ」と証言している。

 また、10年以上前に、収容された施設で死体処理係を務めた30代の脱北者は、「いまも町ですれ違う人が死体に見え、腐った腕を引っ張るとすっと抜けた感覚が消えない」と幻覚に苦しんでいる。

 報告書では同時に、中国が、脱北者を捕まえて北朝鮮に送還していることを批判し、やめるよう求めている。送還された脱北者は、銃殺される可能性がある。

 脱北者の間では、中国で捕まった女性脱北者が、送還前に収容施設でなぶりものにされることがあると知れ渡っているという。ある脱北者は、「中国の係官は、人権のない北の人間に何をしても大丈夫と、やりたい放題だ」と悔しがる。

 昨年、韓国の朴槿恵大統領が訪中する直前にも、脱北者9人が中国から送還される事件が起きた。しかし韓国政権は「脱北者が中韓の外交問題になるのをおそれて強硬姿勢を取らない」(韓国の大学教授)という。

 調査委員会の公聴会で証言した脱北者の男性は、「報告書にあるように、徹底した独裁下の北は簡単に崩壊しない。現在進行形の人権弾圧を許す中国の顔色を、韓国政府がうかがうのはやめてほしい」と嘆くのだ。

週刊朝日  2014年3月7日号