ノスタルジーとアバンギャルドの両面を内包するアート。それこそが「トタニズム」の世界観なのかもしれない。
「年配の人たちは懐かしむ。一方で、若い世代のなかには色遣いがかっこいいと受け止める人がいる。風雪にさらされて時間とともに自然と変化したトタンには、懐古と前衛、そんな魅力があるのかもしれません」
津々浦々、トタンを撮る写真家のイシワタフミアキさんが、そう説明する。
イシワタさんがトタンの魅力に引き込まれ、撮影を始めたのは2007年ごろ。「トタンっていいよね」の一言がきっかけだった。
「いままで視界に入らなかったトタンが、なぜか急に気になり始めちゃって。意外と街中のあちこちにトタンが残っているものだな、と気づいたんです」
昨年10~11月には、トタンの建造物の写真だけを展示した写真展「トタニズム」を開催。訪れたスイス人の写真家が写真を見るや否や、こう評した。
「マーク・ロスコの作品のようだ」
トタンの色味が、色合いの微妙な変化のみで抽象的な美の世界を表現する現代アートの巨匠の作品を彷彿とさせる、と。
一般には黒ずんだように見える錆の色も、海が近い地域では、潮風により赤錆になりやすい。湿気が多い場所など、立地や地域によって色味が変わる。また、補修などで無造作にトタンが継(つ)ぎ接(は)ぎされることで色味が増す「パッチワーク型」や、雨どいや、ガスや水道などの配管が無機質なトタンを這うように美しく伸びる「設備型」など、様々な“表情”を見せる。トタニズムの世界は、深い。
明治時代末期に八幡製鉄所により国産化されたトタンは、戦後まもなく、防火対策などで普及した。だが、国産化から100年以上が経過した現在、都市部を中心にその姿が減りつつある。
「でも、最近は、いいトタンがある場所をツイッターで教えてくれるファンもいますよ」(イシワタさん)
トタニストたちの飽くなき追求は、続く。
※週刊朝日 2014年2月21日号