国は福島の原発事故以降、各地の放射線量を継続的に測定するため、福島とその近隣の学校や公園など3千カ所以上に「モニタリングポスト」という装置を設置した。しかし、50億円近い費用を投入したにもかかわらず、この装置は実際の放射線量よりも低い数字が出ると地元住民の間で評判が悪い。独自測定すると、最大4割超も低かった。そのデタラメぶりをジャーナリストの桐島瞬氏が取材した。
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「そもそも放射線量の測定データは、住民を保護する施策の土台となるもの。それが半分も低く示されている状態は許されない」(琉球大学名誉教授の矢ケ崎克馬氏)
矢ケ崎氏らの科学者グループ「市民と科学者の内部被曝問題研究会」は2012年10月、福島県内にある106カ所のモニタリングポスト近くの空間線量を独自で測定し、測定値に大きな誤差があることを突き止め、告発した。
「モニタリングポストは、平均して真の値の50%ほどしか示していなかったのです。我々が測定したものと比べて、たった40%だった装置もあります。低く表示される理由は、設置状態が悪いからで、鉄板が土台に敷かれ、センサーなどの部品は覆いの中にあります。周囲は金網で囲まれているし、これでは地表に沈着した放射性物質から発せられた放射線を遮蔽してしまいます」(矢ケ崎氏)
確かにセシウムなどから放出されるガンマ線は、鉛、鉄、コンクリートなど比重の重い物質で遮蔽される。モニタリングポストにはいくつかタイプがあるが、「可搬型」と呼ばれるものは、土台をコンクリートの足で固め、その上に鉄板を置き、そこに検出器を載せている。これでは矢ケ崎氏の言うように、地面に落ちた放射性物質から発する放射線が遮蔽され、肝心の検出器まで届かないのである。
矢ケ崎氏らのグループの告発は当時、新聞のベタ記事扱いだったが、政府の原子力災害現地対策本部は慌てた。翌11月、福島県や関東地方などに設置している可搬型のモニタリングポスト675台が実際より1割程度低めに値が表示されると発表したのだ。モニタリングポストを設置した文部科学省の当時の発表資料から抜き出してみよう。
「検出器周辺に設置したバッテリー等が、周囲の放射線を一部遮ること等により、場所によってサーベイメータで測定した同地点の値と比べ、(モニタリング)ポストの測定値が低めの値を示す傾向にあることが確認されました。このため、今回の機器調整工事では、ポストの付属機器による測定値への遮へい影響を低減させ、周辺環境により適合した測定結果を得ることを目的としています」
発表にあるように政府はしぶしぶ装置の欠陥を認め、約1億5千万円を出費し、改修作業に乗り出した。
だが、モニタリングポストには詳細な仕様書があり、稼働させる前に当然、検品もしていたはず。
装置は競争入札で落札した業界大手の日立アロカメディカル、富士電機の2社が製造したが、発注者の国が、低い値を表示することをそれまでまったく知らなかったとは考えづらい。
そもそも低い数値を示すことで製造者に責任があれば、国はメーカーに瑕疵担保責任を追及するはずである。ところが、富士電機に取材しても「文科省の仕様どおりに製作しました。低い数値を示すことで、瑕疵は問われていません」(広報部)というのである。
※週刊朝日 2014年2月14日号