岸田文雄首相は、性的少数者や同性婚をめぐる差別発言をした荒井勝喜首相秘書官を更迭した。ただ、岸田首相も同性婚の法制化について、「社会が変わってしまう課題だからこそ、社会全体の雰囲気にしっかり思いをめぐらせたうえで判断することが大事だ」と発言している。今回の一連の発言について、トランスジェンダーの杉山文野さんは何を思ったのか。AERA 2023年2月20日号の記事を紹介する。
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トランスジェンダーの一当事者として、仲間たちの顔を思い浮かべながら、悔しい、悲しい、つらいが入りまじった感情を抱きました。
「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」と荒井勝喜前首相秘書官は発言したそうですが、現実は逆です。認められず国を捨てざるをえない人がたくさんいます。「単なる発言ミス」との声もSNSで見かけました。そう擁護してしまうのは、LGBTQについてルールがない、つまり法制化されていないからだと思います。
岸田文雄首相は同性婚について「社会全体の雰囲気にしっかりと思いをめぐらせたうえで」慎重に検討すべき課題だと言います。でも、同性婚の法制化を求めるのは人権の問題だからです。雰囲気で左右される話ではありません。全国民は平等と言いながら、結婚できる人とできない人がいる。裏を返せば、LGBTQは「全国民」に含まれないということになるのです。
婚姻平等の実現やLGBTQへの差別禁止法の法制化、性同一性障害の特例法で「戸籍上の性別を変えるためには『不妊手術』を受けること」などを義務付けた要件の緩和。これらの実現が最低限必要だと考えます。
差別禁止法ができたら言いたいことも言えなくなると反対する人がいます。でも、私たちは何も差別する人を罰したいがためにルールを作ろうと言っているのではありません。飲酒運転で人をはね、被害者に「そこを歩いていたおまえが悪い」という人がいないのはルールがあるからで、これは罰することが目的ではなく、皆が安全に暮らすためのルールです。LGBTQに関しては基準がない分、何がよくて悪いのか、皆が思うがままに言い合っている。でも、誰だって加害者になりたくないはずです。知らぬうちに誰かを傷つける社会は誰にとってもハッピーではないと思います。