安倍晋三首相は女性が活躍できる社会を目指すとし、それを成長戦略の中核に掲げている。しかし、「伝説のディーラー」の異名をとった藤巻健史氏は、米モルガン銀行に勤務した経験からこう指摘する。

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 日本では働く女性の約6割が第1子の出産を機に離職してしまうそうだ。再就職は難しい。離職の大きな原因の一つが保育所不足だそうで、その対策として保育所を増やし、待機児童の解消を目指すとのこと。

 首相は育児休業期間の延長を経団連に求め、職場復帰策に取り組む企業への助成金や税制優遇も検討しているようだ。

 結構なことである。財政赤字の折、費用の問題はあるにしても、望ましい方向に動いている。

 しかし問題は、これらの方策は、しょせんは対症療法に過ぎない点だ。社会の重要ポストは相変わらず男性が握り続けるだろう。15年にわたる私の米銀勤務の経験からすれば、仕事面での男女平等は、雇用の流動化によってのみ達成される。それに多少のマイノリティー保護の法律があれば完璧だ。

 モルガン銀行のマーケット分野には、後方事務の職務ではあったものの、米国人女性大幹部がいた。

 彼女は、私が邦銀ロンドン支店でトレーディングをしていたときの金融仲介業者(マネーブローカー)の一人だった。優秀だとは認識していたが、子供の誕生を機に職場を離れ米国に帰ったと聞いた。私がモルガン銀行に転職してから数年後、彼女がモルガン銀行ニューヨーク本店に入社したと聞いたときは、びっくりしたものだ。その彼女が、あれよあれよという間に出世して1年後には部門長になったのだ。

 終身雇用、年功序列の仕組みが全く存在しない米国社会だからこその話だ。

週刊朝日  2013年12月13日号