週刊朝日11月29日号に掲載された対談「『だからテレビはダメなんだ』 さだまさし×みのもんた」の完全版を収録しました。

* * *

みの でもね、やっぱりラジオの世界のすごさっていうのは、いまだに忘れられない。「台風が四国に何時ごろ上陸をする」っていうニュースがある。今入ってきて、上陸してどうのこうのって言ったときに、「子供が帰ってこない」「お父さんが帰ってこない」っていう声が局に届いて。「ラジオの中のニュースで、これ言ってあげようよ」と。「子供がまだ帰ってこない。どこの何々が帰ってこない。心配してますから。公衆電話で電話だけでもできませんかね」と。即かかったよ。「大丈夫だ」と。あ、じゃあ聴いてたんだな、と。だからラジオの何ていうのかな、瞬発力っていうか、もっともっと食い込めるね。
さだ うん、即時性。
みの 即時性、うん。そういうのをだから、普通の娯楽系統、音楽系統の番組でもどんどん入れながらやればいいんだよね。
さだ 僕もそう思うなあ。
みの うん。さっきあの、さださんが、「街歩いてると、どこでも音楽、曲が聞こえてる時期があるよね」って言ったけども、「今信濃町でこんな曲が流れてました」とかね、「今新橋でこんな曲が聞こえてます」って、それだけでも面白いって言ったの。ラジオカーって言って。
さだ あっラジオカーね。
みの だけどね、ラジオカーのテーマがつまんないの、「人混みが多い」とか、歩行者天国で「どちらから来ました」「何買った」とか、そうじゃないだろうと。今何が見える、いや「見える」って何が聞こえるってことなのね。僕らは「見える」って言ってるんだけど。何が見える?
さだ そうそう、「何が見える」はラジオでは「何が聞こえる」ですものね。
みの 「軍艦マーチが流れてますよ」とかね、「与作が流れてます」とか、そういうのがすっごくラジオ的なんですよ。かけようか?ってかけられる。
さだ なるほど。
みの だからラジオカーなんだよなって言ったんだけど。なんかもう、わかってもらえなかったみたい。
さだ ものすごいヒントもらってますよ、僕。小説の。
みの あっそう。
さだ 恐らく、この小説を読んでくれるラジオ局のディレクターがいたら、ラジオ変わるかもしれないです。
みの 変わって欲しいね。
さだ 変わって欲しい。
みの だってテレビで誰がやってたんだっけな、「夕飯ですよ」「ごはんですよ」とかってやってる番組で、いきなりそのうちに行ってさ、「夕ご飯はなんですか」って。
さだ そうそうそうそう。
みの 結構あれが受けた時代があったんだけど。
さだ ヨネスケ。
みの ヨネだ。あんなのラジオでは、もっと前にやってたものね。
さだ やってますやってます。だって「友達の友達は友達か」って僕がやったんですから、一番最初に。
みの あっそう。
さだ オオカワのキンちゃんと。
みの キンちゃんね、
さだ 全国ネットの番組で、「今一番北で聴いてると思う人ハガキちょうだい」って言って。翌週、この人に、「あなたの一番友達で、ちょっと南住んでる人を紹介してちょうだい」って言って、果たしてどこまでつながるかと。そしたら、うまいこと紀伊半島から四国へ入ってね、それで四国一周して大阪へ出てね、それで九州も東側から入ってね、鹿児島に回って本からうちの妹にバトンが渡ったの。で、妹から僕にバトンが渡って。
みの すごいじゃん。

 

さだ すごいでしょ。あっほんとに友達の友達は友達だったっていうんで、最終回は1時間、北から妹まで名前読むだけですよ。これは面白かったですよ。
みの 面白いね、ラジオだね、ラジオだね。
さだ それもうずーっと前にやってるんですもん。そうやって考えると。
みの 今ないねそれ。
さだ ない。なんかね、見えることだけでごまかすからね、ごまかしやすい。聴いてることってごまかしにくいんですよね、結構ね。だから、僕はラジオの時代がこれからくると
みの 昔あれだよな、学校の帰り、夕方になるともう腹すかしてさ、帰る。そうするとね、「このうちの今日のごはんはなんだ」「あっ、このうちはこうだ」って。「道路歩いてると、その家の夜の匂いがあったよな」って僕が言ったの。それがオオカワのキンちゃん。「みの、やってみないか」って。「僕はスタジオにいるんだ」「いやヒマなの誰だ」「梶原しげる」だって。
さだ 梶原しげるさん。
みの 「こんばんわーっ、あのちょっと匂いが、こんなに匂いがするんですけど」「忙しいところで、なんなの」「すいません、みのさん怒られました」ってね。それがラジオ。
さだ そうそうそう、それでいいんだよ。今度それでいこう。
みの でもいいアイデアじゃない。「友達の友達」。
さだ そうそうそう。
みの すごいね。輪が出来んだね。
さだ 僕、「セイ!ヤング」のプロデューサーはタナアミさんだったですからね。
みの ああタナアミさんね。
さだ タナカアキオ、タナアミ、それからカミクラっていたでしょ。
みの カミクラはまだマシかもしれないけど、タナウミさんだとかね、ソノクラさんはもう酒と女とバクチ。
さだ だってカミクラ、僕に「セイ!ヤング」で競馬予想させたんですから。
みの カミクラね!
さだ 競馬予想させて、僕「さだまさごろう」っていう予想屋だっんですから。これがまた当たるんだ。めっちゃめちゃ当たるんで、「さだまさし好きじゃないけど、競馬が好きだ」ってやつが聴いてました。
みの 当時のラジオはできたの、それが。
さだ できたできた。
みの できたというか、やらしてくれた。
さだ さすがにね、NHKではね、「明日NHKマイルカップだから予想させろ」って言ったらね、「競馬はやめてください」って。
みの ああそう。
さだ だって「菊花賞中継やってるじゃん」っていうのに、「競馬はやめて下さい」って。「言っちゃいけないの?」「いや言うのは構わないけど、予想はやめて下さい」と。
みの あっ、予想はね、なるほどね。
さだ だからNHKはNHKで悩み抱えてますよ。あそこは公務員ですから。だけど文化放送って公務員じゃないじゃないですか。
みの そうだよ。半分ヤクザみたいな
さだ そうそう、ヤクザですよね、ほぼ。連載小説ではJOPR、東亜放送ですけどね。
みの 東亜放送ね。
さだ 東亜放送。
 

みの 文化放送、東亜放送。よく考えたね、東亜ね。
さだ ええ、ほかにない放送局じゃないと。本当にあるとやばいですもん。
みの そりゃそうだね
さだ 系列局だって、東海道ラジオと、ラジオ大阪城と、九州夕日放送ですから、ネット局が。
みの いや懐かしいよなあ。だってほんと、僕らの時代は尼さんが出入りしてましたから。
さだ そうそうそう、僕も知ってますよ。
みの シスターって呼ばれてて。
さだ シスター、ええ、ええ、ええ。
みの 「こうした首吊って死んだんだ」とか変なこと言ったりね。6階の宿直室。
さだ 5スタの変な階段あったじゃないですか
みの 螺旋階段みたいな。
さだ 急にくっついてるやつ。
みの 怖かったねえ、あれ。
さだ 螺旋階段は副調整室に上がるやつでしょ。
みの そう。
さだ そうじゃなくてあの、聖堂の奥に、途中まで梯子があったじゃないですか。
みの ああ。あった、あった、あった。
さだ あそこまでどうやった上がるんだって。
みの やだやだやだ。うーわ、気持ち悪い。
さだ 四谷怪談ね。
みの 四谷怪談、ほんと四谷怪談。壊しちゃった。
さだ ウソじゃないでしょ、僕が書いてるの。ほんとにそうだったんだって。
みの いやでもよく覚えてるなと思って。
さだ 地下の便所に怖いネタあるんですよ。
みの 音がするやつ。
さだ ね。
みの 怖い。
さだ 地下の便所ね、あれ。
みの そう。あとね、エレベーターが、人が乗ってないのに深夜なのになぜ動いた、とかね。動いてないよ、でも音が聞こえた、とかね、まことしやかに。
さだ でも僕、知らないで地下の便所に1回行ったんですよ一人で。
みの うわああああ。
さだ 一人で夜中に。
みの 機械室か何かあって。
さだ そしたら、寒い寒い。真夏なのに。寒くて寒くて。おしっこしてる時に、ばったんばったん、音がするんですよ、後ろで。
みの うわああああ。
さだ 後ろ見たら、なんにもないのに。
みの うわああああ。
さだ ばったんばったん音がするんですよ。
みの あそこ、あそこは出るね。
さだ それで、僕はそのまま、小便出ないで、2階の奥まで戻りましたよ、2階の奥が詰まってたから。2スタの脇。
みの 2スタの脇ね。
さだ はい。
みの あっ、2スタのほう使ってた?
さだ 僕は2スタです。「セイ!ヤング」は1スタだったですけれどね。
みの 懐かしいなあ。
さだ いやあ懐かしいなあ。構造を全部覚えてますね、6スタがあそこにあって、4スタがあそこにあって。
みの 大体それで隣を新築してくっつけたんだからね。
さだ そうそうそう。
みの 坂降りる途中に、バナナの倉庫があって、そのあと爆発しちっゃて大騒ぎになった。
さだ 爆発しちゃったの、そうそう。あった。あの中華料理店は燃えたじゃないですか。
みの 燃えた、火事でね。
さだ ね。あれで太ったじゃないですか。これはあやしいとかね。
 

みの 焼け太り。
さだ 焼け太りしたとかね。もうあの店ないですからね。
みの ないよね。
さだ ないっす。
みの でも、本当に懐かしかった、さっき。ほんっとうにラジオの世界だね。
さだ まだあの、この小説の間中は、浜松町に移転しませんから。
みの なるほどね。
さだ ずっと若葉にあるんですよ。四谷3丁目の居酒屋が根城になるんですよ。
みの よく飲みにいったね、お金があるときは荒木町。
さだ 荒木町ね。お金があればね。あの辺は安かったですよね、四谷の2丁目、3丁目。
みの 安かったです。あれは安かったです、ほんとにね。
さだ 俺なんでこんな文化放送に詳しいんだろうと思ったけど、僕文化放送に救われてるんですよ実は。映画「長江」をやって僕は大借金して、でにっちもさっちもいかなかった時期があるんですよ。でそれを知って、フジのある人が、その人とはもう個人的にもすごく親しかったんですけど。弟分だったんで僕。で、その人が、「さだをつぶすなよ」って言われたからってことで、ニッポン放送の人が僕のところにきて、「今いくらあれば、いけるんだ」って聞かれたんですよ。経理に聞いたら、7億ショートしてるって。「7億ないですよ」って言ったら、「それ、言われているから。フジサンケイで持つから」って言われたの。
みの 「長江」?
さだ 「長江」のあと。何年かあとですよ。でも僕は文化育ちだから、そんなうれしいことはないけど、それ一応文化に報告しなくちゃいけないっていう仁義があったから、「ちょっと一両日待ってください」って言って、コマイさんに言ったの、それを。コマイさん、もう偉かったから。「コマイさん、かくかくしかじかで、うち助けてくれるっていうんで、フジサンケイにもうお世話になります」って言ったんですよ。まあ「さだ企画」がフジサンケイの子会社みたいな形になるんだけど。そしたらね、コマイさんが「1週間待て」と。あの人一人で、取締役会通して、文化が肩代わりしてくれるって、7億。でうちは文化の子会社だった時期があるんです。
みの 素晴らしいねえ。
さだ だからその頃、文化放送に土曜日の夜から日曜日の明け方にかけた深夜放送と、月~金の帯と、1週間全部出てましたから、文化に。その当時。
みの ギャラ稼いで。
さだ はい。
みの あれ? 日清・日露戦争のなんだっけ、やんなかったっけ?
さだ ああ、それはやりました。「二百三高地」。
みの あれ、「二百三高地」ね。
さだ あれは別に歌だけですから、大もうけですよ。
みの ああ、大もうけでしょ。
さだ でも俺、中国行って映画撮っちゃったから大損こきましたよ。ただもう、35ミリで。あの当時35ミリ持っているのは僕だけですから。
みの はああ、贅沢だねえ。
さだ もう貴重なフィルムですよ。100年後には僕、名前残ってますよ。
みの ちゃんと保存してあるんだ。
さだ ありますあります。
みの 傷まないようにしないと、あれだね。
さだ 大丈夫です。
みの フィルムでやったの?
さだ はい?
みの フィルムで撮ったの?
さだ フィルムです。35ミリですよ。「パナフレックス」ですよ。
 

みの 「長」』ねえ。
さだ ええ、それはもう、4Kテレビでも耐えられます。
みの コマイさんもすげえ。
さだ やっぱ、コマイさんは恩人ですね、僕。
みの コマイさんねえ、とある有名な店が銀座にあるじゃない。
さだ はい。
みの あそこに連れてってくれたのがコマイさん。オープンしたばっかし。
さだ やっぱりねえ。
みの 連れてかれた。それが悪の道の始まりだ、私の。
さだ コマイさんが悪いの? あれ?
みの コマイさんが悪い。俺いまだにその店のママに言われるもん。
さだ コマイさんね。。
みの ずっぽり浸かっちゃったもんね。
さだ うん。
みの 給料、全部はたいて。
さだ あっ、給料ないのに銀座通ってたんですか?
みの ないよ、だってあの頃は給料2万8000円とか32000円だもん。
さだ そうだよ、そう。だって僕が「グレープ」の初任給3万5000円ですもん。
みの 俺より多いわ。
さだ 昭和48年ですよ。
みの いいほうだよ。
さだ ほんとですか。
みの いいほうだよ。1万9千いくらだったもん、初任給、僕は。
さだ それは、みのさん、だって41,42年でしょ。
みの そう。
さだ ということは1960年代じゃないですか。
みの そう。それでね、一人でね、オールド入れてね、それでも3万円で飲めたのよ。だから今と変わんないの。だから銀座って一流だなって思うのよ、あの何十年前の3万円と、今行って座って3万5000円だから、ほとんど変わってないですよ。でも、毎日のように行っちゃった。
さだ バカだ。
みの バカ、ほんとバカ。
さだ 毎日のように行っちゃうの? 何がそんなに楽しいんですか、銀座行って。
みの 何が楽しいだかわからないんだけどね、行っちゃうんだよね。だから「セイ!ヤング」終わるとすぐ行っちゃったりね。店を開けて待っててくれたりね。それが楽しかった。
さだ そうかあ。「終わったら、みのちゃん来るわよ」って。
みの そう、待っててくれるの。
さだ でちやほやされて、もう鼻の下伸ばして。
みの いや、ちやほやはしてくれなかったね。
さだ なんだ。
みの ちやほやしないで、なんか残っててくれるのよ。
さだ いやーな顔している人も一人二人いたでしょ。
みの いた。
さだ いたよね。
みの 「早く帰れよ」みたいな。
さだ いい時代だな、いい時代だな。
みの いい時代。もう「ワイドNo1」なんて、アシザワさんと一緒にやってる時はもう20時に終わると即行っちゃって。でも当時は、ほんとに年に2回のボーナスの時とあれで、許してくれましたからね。いい時代だったなぁ。退職金なんか足りなかったもん、俺。
さだ えっ?
 

みの 文化放送辞めたときの退職金で払えなかった。女房から借りて払ったんだよね。
さだ ほんとに?!
みの うん。
さだ 飲んだね、飲み過ぎ。朝酔っ払ってるときあるでしょ、今でも。
みの ある。
さだ 寝てますよね、立って。
みの なんなのかな、さっき言ったけど、よく言えば躍動感、悪く言うと、生活の匂いがないよね。
さだ 生活の匂いがない。それはね、いつから生活の匂いがなくなったか僕は知ってるんです。ウォシュレットからですよ。
みの なんで。
さだ だって、僕ら、「くみ取り」で育ってるじゃないですか。くみ取りで育ってるってことは、人間の排泄物っていうのがどういうものかをちゃんと理解して、多感な時期を乗り越えている。にもかかわらず、最近、少なくとも25、30近いやつまでは、うんこは流れるものだと思ってますよ。ほとんどの子は。だから、自分は綺麗な生き物だと錯覚しているんですよ。僕らは、ボットン便所の中でうごめいてるうじ虫を見てますから、「人間なんてこんなもんだ」っていうところからスタートしているけれども。だからそこですね、体温なくしたのは。落とし紙じゃなくなって、こう紙を巻くようになってから。
みの 確かに。落とし紙って言葉はもう通用しないかな。
さだ ちり紙(し)って言わないですもん。
みの なるほどねえ。
さだ あいつは言いますけど、ウチのマネジャー。ティッシュのこと「ちり紙」って言いますから。
みの どちらのご出身?
さだ 江戸っ子です。
みの 東京はちり紙。
さだ おかしい、おかしいですよ、あいつは、あいつだけおかしいんですよ。年齢を詐称してるんですよ。68歳ですよ、あいつ実は。だって、便所のことを「はばかり」って言うしね。
みの はばかりねえ。でもほんと生活のなんていうかなぁ、こう息吹じゃないけど、躍動感があったなあ、生きてるっていうなあ。
さだ 生きてる躍動感ねぇ、それが一番。
みの ラジオでもありましたもん。
さだ 「今生きてる、一緒に生きてる」っていう、うたい文句があったんですね。
みの ありましたね。同時進行できたから。
さだ そうですね。それを取り戻さなきゃだめだあ、ラジオは。
みの いや、ラジオの使命感って、やっぱりそこですよ。
さだ ですね。
みの そうだよねえ。
さだ でももうテレビは限界迎えているのはご存知だと思いますけど、サテライトで200局食ってるんですよ今。誰も中波なんてね、見てないっすよ。ほんとにわずかな視聴率を争っているだけでね。なんだか、これから一番ほんとに伝えなきゃいけないことって違いますね。
みの 確かにチャンネルも多いしなぁ、今。
 

さだ はい。
みの すごいテレビ。
さだ どれだけ話題になって、どれだけスーパースター扱いされてる人でも、あっという間に、数年後には地方でコンサート入んないですよ。あっという間ですよ。びっくりするほど入らなくなりますよ。つまり、そういう温度なんですよね。だから、ラジオから日本を立て直さないとダメですね。
みの ラジオねえ。
さだ はい。
みの 今あれだよな、中波も結構遠くまで届くからなあ。
さだ うん、届きますよ。
みの 夜なんかねえ。
さだ それと、いまラジオは、パソコンでも携帯でも聞けますから。そうやって考えるとラジオってものすごい。
みの さっき言った、テレビ消して音だけっていうのはわかるね、なんかね。
さだ ほんとにそんな時代にきてるんで。ちょっと今キャンペーン仕掛けようと思っているんですけどね、個人的な。
みの いやああのね、僕、文化放送時代からね、試写会の誘いって多いんですよ。
さだ はい、試写会。
みの 僕は試写会絶対行かないの。
さだ ふむ。
みの というのは、僕は映画世代だから、もう「鞍馬天狗」の時代から、映画館で木戸銭払ってチケット買わないとね、なんかありがたみがないの。
さだ その通りですね。
みの コンサートもそう。
さだ そうそうそう。
みの 自分でチケット買ってね、座るとね、こう違うの。
さだ わかる。
みの 試写会って行ってもね、ぱーっと見てふーんとだけ。残んない。
さだ それで問題なのは、タダで見に来るやつが、評論家なんですよ。
みの ……これ、さだくんが言ったんだよ。
さだ タダで見に来るヤツが評論しているんですよ。言いたいこと言うわね。で、コンサートも、タダで見に来るヤツが評論してるんです、ほとんど。それで、そこで、ものすごいお土産をあげるタレントは、それはよく言いますわね。なんかあげないとダメだなって思ってますもん。
みの ほんと、ラジオってすごいなと思います。
さだ 軽いし。
みの それはすごかった、ラジオって。
さだ 見えないし。
みの 何がすごいって、世の中動かせたもん。それも、曲で動かせたんですよ。
さだ 音楽で。ね
みの 音楽で。音楽ってほんとにね、僕が言うとおかしいけど、世の中をね、ほんと、揺らすことぐらいできますよ。
さだ あの当時はね。
みの いやあ、いま、なんか迫力ある曲ない?
さだ ううん、今はね、音楽を持たないです。
みの 詞が覚えられないのはほんとですよ。
さだ だから今の人たちはみんなCD買わないです。ダウンロードで、聴いて、捨て。それでまた新しいのダウンロードして、聴いて、捨て。捨ててくんです。もう自分で持っとくってことしないんです。CDが売れないんです。握手券でもついてれば別ですよ。でもCDはどのくらい残ってますかねえ。握手券は残ってても、使っても、つまり、売ってる物が違ってきたんですよ。楽曲そのものに力がない。
 

みの 確かにあれだよなあ、ガンガン音楽かけてるけど、パソコンで聴いてるやつたくさんいるもんね、なんか。
さだ いますよ。自分の好きな物だけ聴けますもん。で最近の子は、もう耳を塞いでますから、音楽で。
みの でもラジオだよなあ。
さだ ラジオなんです。
みの 僕がいま文化放送でやらせていただいてるんだけど、絶対完奏させるの。
さだ うんうん。
みの 僕いやなの、1番だけとか、1番2番抜かしてとかやるの。悪いけど、イントロから最後のところまで、1番2番3番全部かけていくんです。
さだ それはね、みのさんの世代だからですよ。
みの 曲の紹介ってね、そういうもんだよ。
さだ 泣くほどうれしい、その話は。
みの 絶対売れる。聴いてる人は満足。だから、曲数が少ないんですよ。2時間しかないから。
さだ でも関係ないですよ、そんなの。
みの だけど、かけたい曲っていうのはほんといいですよ。
さだ だってみのさんね、「関白宣言」ね、「俺より先に寝るな起きるな」のところで切られてごらんなさい。「何言ってんだこいつは」って思われますよ。
みの 生のコンサートの会場で聴くと、ほんと泣けるね。
さだ だけどね、1番だけでコマーシャルにいかれちっゃたらね、「ふざけんなバカヤロー」って言われますよね。「なんで、お前より先に寝ちゃいけねえんだ」って。いや最後まで聴いてって思うんだけど、聴かないんですもの。だからもう、コマーシャルソングみたいな歌ばっかりヒットするのよ。
みの 今ね。
さだ ワンフレーズソングばっかり。俺許せないと思う。
みの やっぱり起承転結、そこにドラマがあるんですものね。
さだ だってドラマなんてもうないですよ、今の音楽に。
みの ダメだな。
さだ ダメっすよ、って愚痴言っててもしょうがないんだけどね、ここで。
みの いや、でもラジオがもうちょっと頑張れば、絶対そうなるんじゃないかな。
さだ ラジオがんばれですよね。なんかラジオの応援になりましたよね、今日は。
みの でもうれしい。れいしいし、やっぱり戻るところラジオじゃないかな。
さだ うん。
みの テレビはガラスが割れちゃったらもう見れないんだし。ラジオはやっぱ鉱石ラジオでもいい、聴けるんだし。だから、福島の地震の時も、ウチで「おい、文化放送からもらったラジオあったろ」って言ったら、まだ女房が生きてる時だ。「どこ入れたっけな」って言って棚を探索したら棚にあって、それはちゃんと聞こえる。ああっラジオだな。テレビだめなんだもん、ガーっとなっちゃって。だからラジオの持ってる使命感っていうのはそういう災害の時もそうだけども、やっぱり生活の中に、何かこう大山鳴動せずって言うけど、なんかを揺り動かすものやらないとダメだね。
さだ やっぱり放送する側の設備が簡単なんですよね、ラジオって。だから、極端な話、持ち歩けるじゃないですか、自分一人で。
みの うん。
さだ それを、世界中に乗せられるんですよね。テレビはそうはいかないですよね。これをね、ラジオの現場の人間がね、過小評価しているんじゃないかな。ラジオってものを。しょせん誰も聴いてないとかね。
 

みの そういうこと言う人いるね。
さだ いるんですよ。
みの とんでもない。
さだ とんでもないと思いますよ。だから、ほんとにね、ラジオからね、日本を変えていくってこと僕は可能だと思ってるんですけどね。
みの 僕は街の中にもっと出るべきだよって。中継とかそういうことじゃないの。マイクロフォンと、中継のちっちゃい機材でいいんだから、しゃべりながら。サンマ焼いてるのか、何焼いてるのか、ネタがどうなのか。「いまどこですか」「新宿です」「今度は渋谷です」「えー今度は池袋です」「随分早く移動できるねー」なんて話するだけでもね、池袋まで新宿から何分で移動したか、「いやJRで、何分かかってきました」と。それだけでね、なんかこう頭に浮かぶんですよ。ラジオって。
さだ なるほど。
みの それが大事だなって。それがまた、なんていうのかな、ある民放の若手のアナウンサーたちに言ったんだけど。歩行者天国の中継やっているんですね。「どんなお店がある」「どっから来た」「何を食べてる」「歩行者天国の魅力は」。面白くもなんともないの。いやそうじゃなくてさ、「なんで道路の真ん中にあなた座りたいの?」って聞いてほしかったの。なんで真ん中に座るのかな
さだ 最近道路に座るねえ。
みの なんなんだと思うよねえ。
さだ 僕ら、道路に座ったら怒られませんでした?
みの 怒られましたね。しゃがんでると「この野郎」って怒られるの。
さだ 大人からね。
みの コンビニの前でしゃがんでたら、もう大変、ヤンキーなっちゃう。
さだ ほんとですよね。なんか今もうぺったーんと座るでしょ。
みの ほんとだなあ。
さだ 災害の時以外、座らなかったですよね。
みの ほんとですよね。
さだ 災害の時はしょうがないけど。なんか、どうなってるんだろうな。まあでも、あの当時の生き生きしたラジオの話を今日は聞けて、すごい楽しかった。
みの いやいや、とんでもないです。楽しみ、本ができあがるの。
さだ 頑張ります、はい。
みの 僕でてくる?
さだ 出します。
みの 始末書を書かせる?
さだ ただし、現実ですから。現実の、もう舞台が今ですからね。東亜放送出身の、「まのみんた」っていうのが出てくるんです。まのみんたは出てきます。
みの 懐かしいなあ、四谷にあればよかったのになあ、あのままなあ。
さだ 俺もそう思いますよ。うん。なんかもう今浜松町行ってもよそよそしくてね。
みの つまんないでしょ。
さだ 全然つまんない。
みの だって正面玄関ないんだもん。
さだ 正面玄関から入ったことないですもん。
みの でしょ。おかしいよって言ったら、そしたら中二階みたいのがあるから。
さだ なんかちゃんとあるみたいですね。
みの 文化放送はちゃんとあったよ。
さだ 昔は綺麗な受付の人いましたよね。入ってすぐ綺麗だったですよね、文化放送の受付って。
みの あれエガワの女房だったんじゃなかったっけかな。
さだ 違う、あの人はアナウンサーですよ。
みの あ、アナウンサーだあれは。
さだ あの人はきれいな人でしたよ。
 

みの あれね、受付で。
さだ エガワさんの奥さんでしょ? なんだっけ、すっげえ綺麗なアナウンサー、ミス文化放送でしたよ、あの当時。
みの ぽーんと結婚しちっゃた。
さだ すこーんと持っていきましたよ、エガワさんは。
みの 持ってっちゃったよ。
さだ 腹立つわあ。
みの そんなディレクターばっかし。
さだ あったまきますよ、俺たちみんなドキドキしてたのに、あの人には。エガワさんが持っていっちゃった。
みの 受付っていたんだよ、あの当時。
さだ 受付いた。ついこないだもいましたよ。文化の。
みの まだある?
さだ 若葉の時にはいましたよ。
みの ああいた。
(さださんのマネジャー あっ、今もいますけど)
さだ 今もいるのか。
(さださんのマネジャー はい。もんたさんは、あそこから入ってないだけ)
みの 入れないからね、口が違うから。
さだ 目ざといなお前。
(さださんのマネジャー いや、駅からちゃんと行きますよ)
さだ 駅から行ったらいる。
みの 中二階なんでしょ? 行きにくいところ、なんかよくわかんないなぁ
さだ うん、設計者が悪いな。みのさんはやっぱりこれからもラジオですか。
みの ラジオですね。使っていただければ。
さだ ほんとですね。
みの やっぱりラジオがもってる。だから僕はテレビを、今は気がついて思うんだけど、ラジオのつもりでやってますよ。しゃべりも。
さだ うん、うん。
みの だから、なんていうのかな、見苦しい格好はそれは失礼だからしないかもしれないけども、普通の格好で、しゃべりはラジオのしゃべりですね。だから僕は原稿を読まないし。昔のアナウンサー見事に読みました。今のアナウンサーは出身地のイントネーション、そのまんま持ち続けてます。
さだ 仰る通りです。NHKで「じゅーよっか」(「よ」にアクセントがくる)って言いますから。「じゅーごにち」(「ご」アクセントがくる)って言いますから。「じゅうごにち」(「じゅう」にアクセントがくる)でしょ。
みの 直さなきゃだめですよ。
さだ 「じゅうよっか」(「じゅう」にアクセントがくる]でしょ。普通ですよ。NHKで「じゅーよっか」。「じゅーよっか」って何?
みの 今テレビ局のアナウンサーが言うと、ほんとね、ご自分の出身地のイントネーションを直してない。それでよしとされちゃってるから。それはダメです。アナウンサーになりたいんだったら。
さだ その厳しさもないのね。
みの ……ないですね。
さだ ないの。
みの たまに、講習会で1時間とかってしゃべるじゃないですか。公衆電話があってね。「これ公衆電話。見たことある?」「今は、公衆電話はほとんど見ないですね」「じゃあ5分しゃべってごらん」「えっ」ってなる。「公衆電話を見て、公衆電話のことじゃなくてもいいけど、とにかく5分しゃべってごらん」と。2分が限界ですね。一番びっくりしたのが、語彙がないの。
さだ 語彙がないねえ。
みの だから。
さだ 絵文字ですもん。
みの 絵文字なの。
さだ 今、絵文字時代なんですよ。
みの だから僕はほんとねえ、まずさっきの話になるけど、「関白宣言」でもいい、「精霊流し」でもいい。歌詞をね、ちゃんとさ読んで歌ってごらんと。
さだ いやいや理解できないです。読めないです。もう読む気力体力がないです、
みの 僕らの時代は、ちゃん文句が歌詞が耳に残って、その意味がわかったじゃないですか。
さだ まあわかろうとはしましたよね。わかんなきゃ調べましたよね。
みの 調べましたよ。
さだ それほんとにそうですよ。もう今、絵文字の時代ですもん。
みの それでしかも、アナウンサーに「どちらのご出身?」と聞くと、「ブラジル」なんて言われちゃうの。こないだも、ある局で「君、どちら?」って聞いたら、中近東のなんとかってとこから。そういう方々がアナウンサーになってる時代ですものね
さだ うっかりすると、レオンっていう日本人がいますからね。よくわかりませんよ、ほんとに。
--本日は長時間、ありがとうございました。

週刊朝日 11月29日号に掲載の対談の完全版